覚悟はいいですか
《side 礼》
『助けて、礼…』
紫織?
「どうした?」
「今、…いや何でもない、悪い、続けてくれ兄さん」
気のせいか?紫織に呼ばれた気がしたが、こんなとこにいるはずもない
彼女のことが一時も頭から離れないのはしかたがないが、幻聴まで聞こえるとは…
我ながら呆れるほどの執着だ
俺は頭を一振りして、兄との打ち合わせに集中する
ここは海棠の本社ビル地下にある、兄専用のオペレーションルームだ
壁一面をいくつものモニターが埋め尽くし、その前にはコックピットのように複雑なコンソールが備えられている
兄はまるでシンセサイザーを奏でるように、それらを動かしてはモニターをチェックする
その傍らで、同じくモニターを見つめた
すぐ後ろのテーブルには堂嶋の最近の動向と今まで上がった不正の証拠をまとめたリポートがある
海棠の弁護士団を志水が指揮して、堂嶋の被害者達から有力な証言を引き出すことができた
志水は俺には辛らつな言葉もぶつけるが、対外的には完璧な猫を被る
もちろん被害者達は、海棠で厳重に保護している
リポートに目を通した俺に兄が聞いた
「どうだ?勝てそうか?」
俺は確信を持って答えた
「ああ、これなら間違いなく裁判でも、取引をしても勝てる」
あとはどう動くかだ
迅速かつ確実に、あいつらの息の根を止めてやるーーー