覚悟はいいですか
ここは綾乃さんの遠縁にあたる人の家で、友和さんはその人に頼まれて時々ボディーガードや秘書のような仕事をしているということだった
すっごいお金持ちだから普段はプロを雇ってもいるんだけど、どうしても他人に知られたくないことや事情を広めたくないような時に頼んでくるそうだ
なんと今回は私のことをこっそり守るようにとある人に頼まれ、面識のある綾乃さんと陰ながら見守ってくれていたらしい
そしてそれは2年前の、あのストーカー被害の時からというからホントに驚いた
「全然、気づきませんでした」
茫然として呟くと、何でもないような顔で「まあね。プロだもん」などと嘯く
「ま、礼が一生懸命あんたのこと囲ってたから、あんまり心配してなかったけど、最後の詰めが甘い!そのせいで紫織にケガさせて。やっぱりあとでお仕置きだわ!」
先程の言葉は空耳ではなかったようだ
しかもお仕置きって……
そのセリフに思わずプッと吹き出す。そしてやっぱり思っていた通り、綾乃さんも友和さんも私や礼のことをずっと見守ってくれていたことに感謝で胸がいっぱいになった
「ありがとうございました」
もうお二人に頭が上がらないな
思いを込めて言うと、
「いいのよ。私が紫織のこと、大好きなんだから」
なんて、サラッと言われてしまった
「よし、じゃ行くよ」
そして開けられた障子の外は、どこかのお寺かと見紛う立派な回遊式の庭園が広がっている
「…ここは?」
問いかけると、綾乃さんは形のよい唇に人差し指を当ててウインクする
また、秘密ですか?!
彼女を信じるしかない私は、頬を膨らませて意思表示をするにとどめ、黒く磨かれた長い長い廊下に足を踏み出した