覚悟はいいですか
礼はちょっとびっくりして真顔になり、目を閉じて空を仰いだ
大きく息を吐き肩を落とす。何かぽそっとつぶやいていたが、私には聞こえなかった

再び私を見ると、クシャっとしたちょっとだらしないくらいの甘い笑顔で見つめられる

「!!」

思わず顔を背けてしまった
だって、な、な、何、今の!?なんか顔熱くなってきた
お、落ち着け、落ち着くのよ私!!

「しお?どうかした?」

いつの間にそばに来たのか、ごくごく近い距離で話す声が、直接耳穴に注ぎ込まれるような錯覚に陥る

近いっ、近いよ~、もうっ何なの~~~!!

「!!ど、どうもしない!」

「そ?ならいいけど」

確実にばれているであろう、顔が真っ赤なのは自覚してる
クスクスと笑われた気もするが、今はそれどこじゃない

彼が元の距離に戻ったのを目の端で確認し、私はようやく息をついた

「しおのお願い、聞くよ。連れてってくれる?」

「う、うん。こっちだよ」

ペンションの玄関前はすでに何人か集まりだしていたので、脇道へと彼を促す
隣の家の裏路地をたどると、そのままペンションの庭に出られるのだ

ベランダから入り、洗い物のかごを礼から受け取ってキッチンに置くと、そうっと階段を上がり、あのシャビーシックの部屋へ礼を連れて行った



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