覚悟はいいですか

≪side 礼≫

久しぶりに紫織と会えた

友和さんと綾乃さんを含む4人で会うことと、
彼女の意思を尊重し、友人以上の振舞いをしないという誓約書にサインする条件付きで

早く距離を詰めたい俺としては地獄のような条件だが、背に腹は代えられない
再会した日に彼女の意思も確かめず、暴走気味だった後ろめたさもあり、渋々のんだ

待ちに待ったその日、
待ち合わせ場所に来た紫織はやけに地味な恰好をしていた
会社帰りというが紺のスーツ姿に黒縁メガネ……
よほどお堅い職業でもありえない
こんな格好をするのは就活生くらいだろう
それに眼鏡には度が入っていない、その証拠に店に入ったら眼鏡は外していた

俺は顔を隠しているように感じて妙な違和感を覚えたが、綾乃さんたちも何も言わないので黙っていた


彼女が隣で、手の届く所で食事している…
それを見てるだけで胸も腹もいっぱいになる俺は、相当重症だ

ついつい周りが見えなくなって、おしぼりを口に突っ込まれるなんて、彼女の前でさすがにないと思う
でも紫織の緊張が解け、自然に笑顔を向けてくれるようになった
同時に俺の気持ちが本物だと、さりげなく伝えてくれて、心の中で二人に感謝した

やっと連絡先を聞き出したが、今月中は仕事が忙しいらしい
大きなプロジェクトが大詰めな上、上期の決算も重なるから連日残業で休日出勤もあるそうだ

そういう俺も海外から戻ったばかりで、挨拶まわりやそれに伴う接待で全国を飛び回るから
しばらくは電話とメールになりそうでがっかりする

綾乃さんに「まずは友人から」と念を押され、
おまけに会うときは2人きりでないならいいと言う
中高生かとさらに力が抜けたが、
初心な彼女にそれだけ警戒されることをしたのだからと、自身を戒めた

帰りは送らせてくれるというので、
彼女の自宅まで愛車に乗せる
助手席に座って良いか戸惑うから、
『ここは紫織の指定席だ』
と言って暗に気持ちを伝える

今は、大学時代の両親と住んでいたマンションでなく、
亡くなったおばあさんの家に一人暮らしをしているという
みれば結構な年代物でセキュリティーは大丈夫なのかと思わず聞くと、
そこはご近所付き合いでカバーできると笑っていた

残業続きで遅く帰る日もあるだろう?
鍵だっていつの時代のやつだ!?
ホントに心配が絶えない
もう手っ取り早く俺の所に連れ帰りたいくらいだ

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