覚悟はいいですか
「昨日麗奈から、あ、京極女史のことね。私達同期なのよ。
その麗奈から、今度うちの会社で創業50周年パーティーがあるでしょ、そこに私も華として参加することになったって」

「「「ええ~!」」」

「私もびっくりしたし、断れるものなら断ろうとしたんだけど、会長のご指名でどうやら決定事項みたい。月曜には内示が出ると思う。だから10月のパーティーまで私はそちらにかかりきりになるし、皆に迷惑をかけるのはわかってるんだけど」

そこでお箸をおいて、改めて皆の顔を見渡した。深呼吸をひとつ、覚悟を決める

「私は経理二課の全員に次姫になってほしい。そして次代の華候補として修行させたいと思っている」

空気が止まった、と思う。
皆の目がこれでもかと開かれたまま、一様に私を凝視して続きを待っている

「以前から考えていたんだけど…今の経理2って優秀過ぎるのよ。なぜうちみたいな大企業の社内の経理がたった4人なのか。実際仕事は回っているし、月末以外残業すらほとんどない。今回のプロジェクトだって本来ならシステム事業部辺りの仕事なのに、通常業務の傍らでやり遂げたわ。
普通の事務員の許容量を超えてるのよ。
おそらく会長が次姫と見込んだあなた達を華だった私につけて、修行させてたんじゃないかって」

「でも私達、そんなこと聞かされていません!」
久美子が信じられないという顔をして言う

「うん。私も自分がもう華でないと思ってたから、今まで考えもしなかったんだけどね。
昨日麗奈を通して会長のお考えが分かった時、腑に落ちたのよ。今まで経理二課に感じていた違和感の正体に。

皆にその気があるなら、私はあなた達にぜひとも華になってほしい。それだけの力を持つあなた達をこのまま埋もれさせたくないの。前向きに考えてくれないかな?」


沈黙が流れる
そうだよね、すぐには決められることじゃないし。それにこれは今のところ私が考えていることであって、本当に会長のお考えかどうか、はっきりわかってることじゃないんだから
でも、もし違うとしても本人にやりたい意志があるなら、私は育てるつもりでいる
華とか関係なく、素晴らしい仕事ができる、それくらい彼女たちは優秀だと思うから

「私、やりたいです。というか、やらせてください。」
久美子が声を震わせて、でもはっきりと言った

「正直、秘書課に入れなかったことで、自分は候補になれなかったと諦めてたんです。
でも華の剣の紫織さんがそういうなら、可能性にかけてみたい。なりたい自分を目指して、頑張ってみたいです。」

「私は華とかあまり興味ないんですけど…
会長の作った人材育成のプログラムそのものに興味がありますね。新しい教育プログラムとして確立したらいろいろ応用できそうですし。
なにより自分自身の成長につながるし」
円香らしい、冷静な視点のもの言いだけど、声音は楽しそうだ

「玉の輿になれるならやってみたいです~」
理恵ちゃんはそこなのね、でもこの力の抜け具合にしたたかさを感じる。癒し女子、侮れないと思うのは私だけだろうか?

全員の賛同を得て、私達は覚悟した

まず今回は久美子を連れて、秘書課とレセプションの準備にあたる。その間、経2の仕事は円香と理恵ちゃんで回すことになるが、課長に頼んで1課から応援を頼めば何とかなるだろう

私は華としてレセプションを仕切り、その成功を持って2課の皆を正式に次姫とし、教育することを会長に認めていただく・・・

「「「「かんぱ~い!!」」」」
勢いよくシャンパングラスをあわせ、私たちはこの時、新たな試練に乗り出したーーー



 
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