やさしく包むエメラルド
「ふたり占めですね!」

波打ち際まで歩く間に、外も中もすっかり砂まみれになったスニーカーを脱ぎ、その中に靴下も入れて素足になる。

「え、入るの?」

啓一郎さんは驚いていた。

「当然でしょう?」

「タオルも何もないのに」

「足だけなら砂をまぶせば大丈夫ですよ」

海水はさすがに冷たくて、入ったことを一瞬だけ後悔した。
けれど、

「うわ、冷たい……」

啓一郎さんがついてきてくれたから、すぐにどうでもよくなる。

「透明度高いですね」

カフェオレ色の砂に透明な波が何度も何度も押し寄せる。
とろとろの砂に足を埋めては出すことを繰り返していると、その中に時折、白い小さな貝殻が見えた。

「あ、かわいい! いっぱいある」

少し砂を掘るとかんたんに見つかる。
ちょっとした宝探しみたい。
きれいな形のものばかり選んで拾い集めても、すぐに両手がいっぱいになっていた。

「♪ら~らら~らら~~ららら♪」

結局歌詞を覚えていないまま朝ドラの主題歌を口ずさみ、砂の上に貝殻を並べていった。

「えへへ、ちょっと少女趣味過ぎたかな?」

白い貝殻で作ったハートマークは少しくらいの波では崩れず、きれいに輝いてみえる。

「そうやって遊ぶんだな」

感心したように啓一郎さんが言う。

「何もなくても、小花はいつでもどこでも楽しそうにしてる」

「よく言われます。『悩みなさそうだね』って」

わたしだって涙に暮れる夜くらいあるのに。
誰だって泣いてるところは見せないはずなのに。

「そんなわけない」

啓一郎さんは海に小石を放るように笑い飛ばした。

「悩みのない人なんていない」

夕陽がやさしい。
波の音がやさしい。
きっと悩みが多いだろうこの人の隣は、いつだって穏やかでやさしい風が吹く。

「夕陽が目にしみて泣きそう。胸を貸してください。鼻水拭くから」

冗談めかして本音を言った。
そうしないと、本当に泣いてしまいそうだったから。

「車にティッシュあるから箱ごとあげるよ」
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