やさしく包むエメラルド
現実を知らせるようにブー、ブー、と携帯のバイブ音がした。
メールだったのか、啓一郎さんがポケットから取り出して内容を確認している。
「母から。電気ついたって」
「そうですか」
地球の自転は止まらない。
立ち眩みを起こしてくれない。
白っぽい夕陽はゆるゆると水平線に溶けていく。
「小花」
プラチナ色の啓一郎さんが、わたしを呼ぶ。
「はい」
プラチナ色のわたしも、まっすぐに啓一郎さんを見る。
「これからもまた、ときどきでいいから、家に来て」
砂浜を海鳥がととととと、と歩いて行く。
それを目で追うようにして、啓一郎さんはわたしから視線をそらした。
「……母が、喜ぶから」
貝殻で砂に作ったハート型は崩れないまま、波が運ぶ砂に少しずつ少しずつ埋もれていった。
濡れた足を砂にまぶして、乾いたところでほろほろと払う。
太陽が雲に隠れてしまったせいか、海も空もさっきまでの輝きを失い、どんよりと暗い色に沈んだ。
海沿いの家々にもぽつりぽつりと灯りがともり始めている。
きっと宮前さんの家の居間にも。
「遅くなっちゃいましたね」
「うん」
「おじさんもおばさんも待ってますね」
「うん」
「夏も終わりですね」
「うん」
「そろそろ帰ろう」その言葉をどちらが言うのか、伺うような時間が流れていく。
さっきより街の灯りは数を増し、隣にいる啓一郎さんも少し見えにくくなってきた。
「帰りましょうか」
啓一郎さんが言わないから、とうとうわたしから言った。
「うん」
それでもしばらく佇んで、ようやく海に背を向ける。
たくさんいた海鳥も、遠くの方へ移動していた。
丸太は下りるよりも上る方が大変で、しっかり握らせてもらった啓一郎さんの手は、海風のせいかさっきより冷たい。
それでもその手が離れると寒くて、カーディガンの襟元をしっかり合わせた。
メールだったのか、啓一郎さんがポケットから取り出して内容を確認している。
「母から。電気ついたって」
「そうですか」
地球の自転は止まらない。
立ち眩みを起こしてくれない。
白っぽい夕陽はゆるゆると水平線に溶けていく。
「小花」
プラチナ色の啓一郎さんが、わたしを呼ぶ。
「はい」
プラチナ色のわたしも、まっすぐに啓一郎さんを見る。
「これからもまた、ときどきでいいから、家に来て」
砂浜を海鳥がととととと、と歩いて行く。
それを目で追うようにして、啓一郎さんはわたしから視線をそらした。
「……母が、喜ぶから」
貝殻で砂に作ったハート型は崩れないまま、波が運ぶ砂に少しずつ少しずつ埋もれていった。
濡れた足を砂にまぶして、乾いたところでほろほろと払う。
太陽が雲に隠れてしまったせいか、海も空もさっきまでの輝きを失い、どんよりと暗い色に沈んだ。
海沿いの家々にもぽつりぽつりと灯りがともり始めている。
きっと宮前さんの家の居間にも。
「遅くなっちゃいましたね」
「うん」
「おじさんもおばさんも待ってますね」
「うん」
「夏も終わりですね」
「うん」
「そろそろ帰ろう」その言葉をどちらが言うのか、伺うような時間が流れていく。
さっきより街の灯りは数を増し、隣にいる啓一郎さんも少し見えにくくなってきた。
「帰りましょうか」
啓一郎さんが言わないから、とうとうわたしから言った。
「うん」
それでもしばらく佇んで、ようやく海に背を向ける。
たくさんいた海鳥も、遠くの方へ移動していた。
丸太は下りるよりも上る方が大変で、しっかり握らせてもらった啓一郎さんの手は、海風のせいかさっきより冷たい。
それでもその手が離れると寒くて、カーディガンの襟元をしっかり合わせた。