幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「たりめーだろ、他にお前に何があんだ?」
悪代官みたいな山下さんに「拒否権ねーから」と車に乗せられ、鼻歌交じりで物騒なことばかり言われる。山下さんに怯えていたらいつの間にか見覚えのある景色が広がっていた。
「もしかして、山下さんのご実家に向かってるんですか…?」
「そう。実はアンルージュ案件で忙しくて、工場が回らなくてるんだよ。ヘルプ頼むわ」
思ってもみない話だった。
仕事をクビになったから、もうアンルージュの仕事には関われないと思っていたのに。
「はい…私で良ければ、喜んで!!
ぜひやらせて下さい」
「助かるよ。アンルージュ製品のフォローも体力仕事も、お前なら任せられる」
山下さんに『任せられる』と言ってもらえるなんて思ってなかったから、油断すると涙が落ちてきそうになる。横を向いて堪えていると、「こき使うから覚悟しろ」と頭にとん、と重めに手を乗せられた。
いつも辛いときにはそうしてくれたっけ…。
これまでも山下さんの優しさは知っていたつもりだったけど、それが身に染みたのは山下さんが東京に戻ってからだった。
「過疎地で強制労働させられるのに喜ぶ馬鹿がいる」と悪ぶっていたけれど、私をここで働かせてくれたのは、山下さんの思いやりとしか思えない。
工場の整備や点検のような決まった仕事をこなすと達成感があるし、力仕事を手伝うとびっくりするほど喜んでくれる。
「お疲れさまです。カメラ、ちゃんと映ってますか?」
「おう。顔、だいぶマシになったな。」