幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
ぶーっとしてると、近くで山下さんのお母さんが「ごめんねえ」とクスクス笑っている。
「あ、違うんですすみません!」
「いいのよ。あの子ガサツな上に人使いまで荒くって、もうやになっちゃうわ。環ちゃんもっと怒っていいんだよ?」
と言って下さるのを、慌てて首を振る。
「あ、これリンゴ良かったら食べてね。いっつもおんなじで悪いんだけど」
「ありがとうございます。大好きなんで嬉しいです。ここに居座ってるだけでもご迷惑なのに、気を使っていただいてすみません」
お皿を受け取って頭を下げる。申し訳ないことに、今は山下さんのご実家に住まわせて貰っているのだ。暖かな食卓もリンゴの盛られたお皿も私には眩しすぎて、いつもどうお礼して良いか分からなくなる。
「全っ然、気にしないでホント全っ然。環ちゃん良い子だし目の保養になるから!できればずっとここにいてちょうだい」
「そうそう、ずっといて欲しいからマジであの馬鹿兄と結婚してあげて?
ダメ?やっぱあれじゃだめ?目付き悪いし元ヤンだし性格悪いし、良いとこ無いんだけど何とか妥協してくれない?」
「あはは、紬(つむぎ)ちゃん。
私なんかじゃ山下さんが困ると思うよ」
話に入ってきたのは山下さんの妹さんの紬ちゃん。公立高校で英語の先生をしてる、しっかり者の女の子だ。
紬ちゃんから聞く山下さんの話は殆んど悪口なのに、何故だかぎゅうぎゅうに愛が詰まっている。そういうところは、山下さんに似てる気がする。
広い庭の片隅にはバスケットゴールがある。高校生のときにバスケ部だった紬ちゃんのために、お父さんが取り付けたらしい。
暗くても練習できるようにライトが付いていて、しかも眩しくないように位置が調整されてる。
どこを見ても愛情ばかりで、このお家は目のやり場に困った。ああ、やだな私はやっぱりママの言うとおり嫉妬深くて醜い女だ。
「…だから、こんなに優しくしてくれても、まだ羨ましくなるのかな」