幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
びっくりして口をぽかんと開けていると、涼介が拗ねたように口を尖らせる。


「勝った方の言うことを聞く約束」


「でも結婚て…急に」


「急じゃない。子供の頃からずっと、環と家族になりたいって思ってたよ。」


〝家族〟

その言葉は私にとって決して暖かな響きではなく、満たされない記憶ばかり結びついている。周りのみんながいとも簡単に言う〝家族〟は、私には永遠に望めないものだと思っていた。


「環が辛い思いをした記憶は一緒に塗り替えよう。二人の時間で埋め尽くしたら、そのうち過去なんか見えなくなるだろ。」


「…」


まるで涼介が大きなドアを開けて手を引いてくれるように見えた。扉の先からまばゆい光が漏れて、ますます私の視界を滲ませる。


「例えばだけど、もし子供が生まれたら」


「子供…?」


「まだ先の話だけどな。
…その子に環の欲しかったものを全部あげたらいい。俺たちはまだ何だって取り戻せるんだ」


自分が子供を産むことなんて全く想像つかなかった。だって私は自分のことをどこかまだ子供だと思ってる。膝を抱えてママの背中を見ている子供。笑いかけて欲しくて、話を聞いてほしくて、いつ振り向いてくれるかなと期待してじっと見てる。

それはもう叶わない願いになってしまったけれど、胸の中に広がった景色の中ではママが振り返ってにこにこ笑っていた。

でも、笑ってるのは私だった。小さな子が微笑んでくれて、私はますます嬉しくなる。その子の隣には涼介がいて、きっと今みたいに優しい目をしてる。


欲しい。欲しい。欲しい。
その全てを願って許されるなら、


「私、涼介の子供が欲しい」


「!」
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