幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
会議が終わると、涼介も山下さんも別の商談に出掛けて行った。二人ともアンルージュ以外の仕事も同時にこなしているらしく、デスクワークや商談に忙しそうだ。
サンプルの商品を片付けていると、「環くーん」と明るい声で呼び掛けられる。この前ブラを買ってくれた女性社員の桃田さんだ。
「聞いたよ。ストッキングのプロモーションするんだって?」
「うん、検討してくれるって」
「アンルージュの買収って水瀬マネージャーが進めたんだよね?」
「うん……」
あのとき涼介がお店に来てくれなかったら、『アンルージュ』は潰れていた。そのことはいくら感謝してもしきれない。…だからミーティングルームでの涼介の態度に落ち込むのは、自分でも間違ってると思う。
「大丈夫だって。水瀬マネージャは一度その会社に惚れ込むと、絶対救っちゃうんだから。」
「救うって…そういえば山下さんも言ってたっけ」
「ふふっ、水瀬マネージャが情にアツいのは社内でも有名なんだよね。
困ってる人も会社も、きっとほっとけない性分なのよ」
だからアンルージュのことも救ってくれたんだ…。涼介らしい仕事ぶりに納得する。
「利益重視の方針とは違うから上役の人とたまに揉めるけど、スゴい業績伸ばして黙らせちゃうんだよ。それにお客さんの信頼も厚いの」
「涼介、そういうところは昔と変わらないな…」
「そっか、二人とも昔からの友達なんだよね。
水瀬マネージャと環くん、それに山下さんまで一緒にいると凄い目立つね」
山下さんは涼介の同期で、アパレル事業のスペシャリストだそうだ。『アンルージュ』のブランドプロデュースは山下さんがメイン担当になるので、私はこれから山下さんの指示の元、ここでバイトすることになる。
「イケメン三人で顔をつき合わせて女の子の下着の話してるんだもん。なんか笑っちゃう」
「山下さん以外は、多分やらしいこと考えてないと思うよ」
「あははっ、分かる」
桃田さんと話した後は、涼介に渡された大量の資料を読んでいたらあっという間に時間が過ぎた。
気がつけば就業時間を過ぎて、商談に行っていた涼介たちが会社に戻ってくる。読みきれなかった資料は帰りの電車で読むために鞄にしまった。
「お疲れ、環。持ち帰らなくても続きは明日で良いぞ」
「でも帰りの電車が二時間半かかるから、さすがに隙だし」
「二時間半? そんなに遠くから来てたのか?」
涼介が驚いて立ち上がる。だけど私の家は都会とは程遠い所にあるのだ。独り暮らしを始める時に少しでも安い家賃のアパートを探した結果である。
ママに毎月五万円を仕送りしていることもあり、余計な出費をする余裕はない。
「都会は大変だよね。痴漢は出るし、朝の満員電車にはびっくりしたよ」
「痴漢にあったのか!?」
涼介にがしっと腕を掴まれて、意外な反応に思わず後ずさりをする。
「この見た目で俺が痴漢に合うわけないでしょ。痴漢されてる子を助けたの」
「そうか……それならいいけど」
何か言いたそうな顔をした涼介を降りきって、その日は長い帰路についた。
サンプルの商品を片付けていると、「環くーん」と明るい声で呼び掛けられる。この前ブラを買ってくれた女性社員の桃田さんだ。
「聞いたよ。ストッキングのプロモーションするんだって?」
「うん、検討してくれるって」
「アンルージュの買収って水瀬マネージャーが進めたんだよね?」
「うん……」
あのとき涼介がお店に来てくれなかったら、『アンルージュ』は潰れていた。そのことはいくら感謝してもしきれない。…だからミーティングルームでの涼介の態度に落ち込むのは、自分でも間違ってると思う。
「大丈夫だって。水瀬マネージャは一度その会社に惚れ込むと、絶対救っちゃうんだから。」
「救うって…そういえば山下さんも言ってたっけ」
「ふふっ、水瀬マネージャが情にアツいのは社内でも有名なんだよね。
困ってる人も会社も、きっとほっとけない性分なのよ」
だからアンルージュのことも救ってくれたんだ…。涼介らしい仕事ぶりに納得する。
「利益重視の方針とは違うから上役の人とたまに揉めるけど、スゴい業績伸ばして黙らせちゃうんだよ。それにお客さんの信頼も厚いの」
「涼介、そういうところは昔と変わらないな…」
「そっか、二人とも昔からの友達なんだよね。
水瀬マネージャと環くん、それに山下さんまで一緒にいると凄い目立つね」
山下さんは涼介の同期で、アパレル事業のスペシャリストだそうだ。『アンルージュ』のブランドプロデュースは山下さんがメイン担当になるので、私はこれから山下さんの指示の元、ここでバイトすることになる。
「イケメン三人で顔をつき合わせて女の子の下着の話してるんだもん。なんか笑っちゃう」
「山下さん以外は、多分やらしいこと考えてないと思うよ」
「あははっ、分かる」
桃田さんと話した後は、涼介に渡された大量の資料を読んでいたらあっという間に時間が過ぎた。
気がつけば就業時間を過ぎて、商談に行っていた涼介たちが会社に戻ってくる。読みきれなかった資料は帰りの電車で読むために鞄にしまった。
「お疲れ、環。持ち帰らなくても続きは明日で良いぞ」
「でも帰りの電車が二時間半かかるから、さすがに隙だし」
「二時間半? そんなに遠くから来てたのか?」
涼介が驚いて立ち上がる。だけど私の家は都会とは程遠い所にあるのだ。独り暮らしを始める時に少しでも安い家賃のアパートを探した結果である。
ママに毎月五万円を仕送りしていることもあり、余計な出費をする余裕はない。
「都会は大変だよね。痴漢は出るし、朝の満員電車にはびっくりしたよ」
「痴漢にあったのか!?」
涼介にがしっと腕を掴まれて、意外な反応に思わず後ずさりをする。
「この見た目で俺が痴漢に合うわけないでしょ。痴漢されてる子を助けたの」
「そうか……それならいいけど」
何か言いたそうな顔をした涼介を降りきって、その日は長い帰路についた。