幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
小早川さんが目尻を吊り上げる。彼女は涼介のアシスタントなので、事務手続きについては彼女から説明を聞いていた。
「どうしてこんなに簡単なことができないの?
水瀬マネージャも山下さんもお忙しいの。本当は『アンルージュ』みたいな小さい会社の相手してる場合じゃないのに……。
ただでさえお二人に迷惑かけてるんだから、余計な手間かけさせないでよね」
「ごめんなさい」
ミーティングの時間になると、いつもの会議室の前に集まった涼介たちに小早川さんが頭を下げている。
「申し訳ございません。河原さんの準備に不備がありました。私の指導不足です。この程度のことに確認が必要とは思わなくて…」
私が足を引っ張っているというのは良くわかったので、一緒に頭を下げる。
「まだここで働き始めたばかりなんだからミスくらい当然だ、気にするなよ。小早川さんもフォローありがとう。
会議室が他に空いてないなら外のカフェでミーティングしようか。
…その前に環、顔色悪くないか?」
「大したことないから平気」
「お前の『平気』は、ガキの頃からだいたい嘘なんだよ。無理するな」
「今日は休め」と涼介が強引に休日扱いにしてくれる。席を立つとふらふらして、確かにこれでは仕事しても迷惑になるだけかもしれない。
会社を出たものの、これから電車に揺られることを考えると、家に帰るよりネットカフェでも探したほうが良いのかな…
「待てってば。俺も休み取ったから」
涼介が後ろから走ってきていた。通りを走るタクシーを止めると「乗って」と手を引かれる。
「え、でも」
「俺の家ならここ近いから、ひとまず休め」
「そこまでしてもらうわけには」とか、「私のせいで休みを取るなんて悪いから」とか、思い付く限りの言葉で涼介を止めても「気にするな」と返される。
「……でも、タクシーなんて贅沢だし」
「乗らないなら抱えて歩くけど、どっちがいい?」
そう言われると抗う術がなくなって、言われるままに後部座席に乗った。涼介の肩に頭を乗せられ、心地よくてついウトウトする。
「起きた?」
次に目を開けたときには知らない天井が見えた。リネンの気持ちいい肌触りがする。