幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
転校した後も私のことを探してくれていたとは思わなかった。涼介を見上げて改めて「ごめん」と謝る。


「もうどこにも行くなよ。

ずっと俺のそばにいろ、俺がお前の居場所になるから」


頬に涼介の手が触れて、ひたひたと暖かなお湯につかっているような感じがする。慣れない感覚にうつむくと、涼介の手は頭の上にぽんと移った。


「とりあえずオークでバイトしてる間はここから通えよ。往復五時間も通勤にかけてたら体力持たないぞ」


「え?でも」


こんな見た目とはいえ私は一応女なんだけど、涼介は私が家にいても気にならないのだろうか。


「倒れられたら困るんだよ。お前は俺が差し押さえてるんだから」


「差し押さえって……借金のカタみたいな言い方しなくても」


「実際そんなもんだろ。『アンルージュ』が赤字のうちは環の労働力は俺が預かってるんだよ」


知らなかった、…そうだったんだ。


「つまり、会社の近所に住んできりきり働けと?」


「正解」


意地悪に笑う涼介に、はーっとため息をつく。大人になっても、やっぱり涼介は性別とか関係なく幼馴染みだ。もしかして男として接してるうちに私の性別を忘れてないだろうか。


「そういう話なら遠慮なくお世話になっちゃうよ?涼介、私にエロ本とか見つけられても後悔しないでよね」


「お前、最初にする心配がそれって、どういう思考回路してんだよ」


呆れ顔の涼介が「見つけたら寿司でも奢ってやるよ」と付け加える。


「マジで!回らないお寿司って一度食べてみたかったんだよね」


涼介の部屋を見ようとしてベッドから乗り出すと、二の腕を押さえられる。


「こら、まだ寝とけ。さっきまでふらついてたんだから」


「あ、ごめん。シャツがベタベタしてるよね。なんか寝てるとき汗かいてたみたいで」


「……

このままだと風邪引くから、立てるならシャワー使えよ。着替えなら俺のでもなんとかなるだろ」


その後、涼介は過保護にも私がお風呂場に行くのを支えて歩いてくれた。シャワーを借りた後に着た涼介のシャツは袖が少し余る。


「似たような服でもけっこう違うんだな……」
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