幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
車を下りた後で、ドキドキしてろくにお礼も伝えられなかった事に気がついた。


「明日から本当に一緒に住むんだよね。今さらだけど緊張してきた……」


明日のことを思うと眠れなくなるので「アイツはチビ介」と自分に言い聞かせる。涼介はためらいもなく私を家に呼ぶくらいだから、私が意識してたらきっと変に思うだろう。



その翌日、仕事が終わると涼介にいつもの調子で話しかけられる。


「さ、帰るか。環はこれ持ってて」


やっぱり涼介は緊張なんかしてなくて、無造作にカードキーを手渡されてしまった。家の合鍵らしい。


「いいの?」


「無いと不便だろ。俺が残業で遅い日もあるんだから」


「そうだけど…」


簡単に合鍵なんて預けて良いのかな。自分の部屋以外の鍵なんて持ったことがないからよく分からない。

涼介の家は会社の最寄り駅から地下鉄を少し乗った先にあった。昨日来たときは具合が悪くて気がつかなかったけれど、家賃を想像するのが怖いほど綺麗なマンション。


エントランスは観葉植物が間接照明に照らされていた。部屋に入るとリビングには大きなL字型の窓があり、都会的な眺望を見下ろせるようになっている。

シンプルな家具を見る限り、涼介は飾り気のないインテリアが好きそうだ。


「夕飯はどういう店がいいか?和食とか中華とか」

「え?外食って高いし家でいいよ。寒くなってきたから何か暖かいものでも作ろ?」


いつも通りのことをしようとしたら涼介が驚いている。どこに驚くポイントがあったのかと思ったら、そもそも涼介は家で料理をしたことが無いらしい。
< 28 / 146 >

この作品をシェア

pagetop