幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「全部外食なんて体に悪すぎるでしょ!今までそれで生活してきたの?」


「そう言われてもな……。仕事終わりに飲みに行くことも多いし、これまで特に不便はなかったんだ」


涼介の体が心配になったので「私が作るから」と強引にスーパーに連れていく。


「環が……俺に作ってくれるのか?」


「なんでびっくりしてるの。まさか私が自分だけ食べて涼介にあげないような人でなしだと思ってるわけ!?」


「いや、こういうのは予想してなかったから、……嬉しくて」


そんなに喜ぶような事なのだろうか。豪華なごはんを期待されても困るので、料理の腕は並だと素直に申告しておく。子供の頃から料理はしてるけど、生活のためにしてきただけなので美味しいご馳走は作れない。


「念のため聞くけど……家に醤油くらいあるよね?」


「ん?無いぞ」


「信じられない……!まさかお米もない?」


「無い。ちなみに炊飯器も無い」


「マジで!?」


家には包丁とまな板、鍋と電気ケトルくらいしか無いらしい。いつものようにスーパーで安い食材を中心にメニューを決めようと思ってたけど、予定を変更して少ない調理器具でも作れる食事にした。


「……だから今日は簡単な鍋にしちゃったよ」


「旨いな!環が料理上手とは知らなかった」


目をキラキラさせている涼介に悪いので、「鍋は料理っていう程のものじゃないよ」と補足しておく。


「こんなのでいいなら、ここに住まわせて貰ってる間は料理くらいするよ」


「ありがとう、スッゲー嬉しい……。でも無理しないでいいからな」


涼介は余程外食に飽きているのだろうか、やけに喜んでくれる。料理なんて毎日してるのだから別に無理じゃないし、それどころかスーパーのお会計を全部持ってくれたので、助かっているのは私の方だ。


「でもさ、涼介。これまで彼女にご飯作ってもらったりしなかったの?少し前までは彼女いたんでしょ?」


「ああ、生活に踏み込まれるのが苦手で断ってたんだ」


ビール片手に、とんでもない事を平然と言ってる。


「……!それなら早く言ってよ!!ご飯作られるの嫌なら無理強いしないから。

っていうか、それなら私がここに住むことだってダメなんじゃ」


「環なら嫌じゃない。

誰とも長続きしなかったのは、結局そういうことなんだろうな」


「?」


涼介は微かに笑っていた。ほんの少し自嘲するような笑顔だ。


「何でもない。とにかく環は特別なんだ」


「…………嫌じゃないなら、いいけどさ……」


私が特別というのは、多分同性と同じ感覚で付き合える友達だからだろう。

ただそれだけのことだと想像がつくのに、「特別」という響きが気持ちを波立たせる。心の中にぽんと何かを投げ入れられたみたいな感じだ。
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