幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
その後も、涼介いると他愛ない話が尽きない。


「涼介の家は本がたくさんあるよね。……あ!やけに肌色成分の多い本発見!!ねえねえ何これ?」


「ばーか、期待してんじゃねーよ。『アンルージュ』関連の勉強資料だろうが」


二人で食事の後片付けをするのも、お風呂の順番を譲り合ったりするのも、いつもの独り暮らしとまるで違っていた。何気ない事なのに全部が楽しい。


それなのに何故か時々不安がよぎるのが不思議だった。確か昨日も同じような気持ちになった気がする。お風呂上がりにソファでお茶を飲んで、不安になる理由をぼんやり考える。


「その格好で寒くないか?何か上に着るものでも貸そうか」


「大丈夫だよ。そんなに優しくなくても、私の事なんて「たまきん」って呼んでた頃と同じ扱いで良いのに」


「今はお互い、あの頃とは違うだろ」


ふいに背中がふわっと温かくなる。涼介の腕が私を包み込んでいた。


「ほら、体冷えてるぞ」


「だ、だ、大丈夫だってば!それより涼介、こういうのは……」


「嫌か?」


温かい腕の中にいると、まるで何もかもから守られているような気がする。クラクラするほど優しい気配で、ほんの少しだけ苦しい。


「嫌じゃないけど……怖いよ。自分が弱くなりそうな気がするから……」


涼介の優しさに慣れてしまったら、この先一人で生きていくのを淋しいと思ってしまいそうだ。さっきから続く不安はきっとそういうことなんだ。


だから早く離して欲しいのに、逃れようと身動きすると涼介の腕の力が強くなる。


「俺の前ではいくら弱くなっても構わないから。

言ったろ?俺が環の居場所になるって」
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