幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
あんまりにも声が優しく響くから腕の中でじっとしていた。胸が苦しいけれど、苦しいのにちっとも嫌じゃない。


「こういうのって……あったかくてシアワセだけどさ、普通は恋人同士ですることなんじゃないの?」


「環が俺の恋人なら、この程度じゃ済まさないよ」


唇が当たっているのか、涼介が話すと後頭部がさわさわと動いた。涼介にとってこれは恋人にするハグではないらしい。


「……そっか。それならありがたく甘えることにするっ」


くるっと後ろに向き直って、ぎゅっと涼介にしがみつく。


「うわっ、ホントに凄い力だな……」


涼介は驚いたようだったけれど、私を抱き止めたまま長い間胸を貸してくれた。顔を肩に押し当てると暖かくて泣きそうになる。

……これはママに抱っこしてもらいたかった分。子供のときも、怒られてばかりだった中高生の頃も、大人になってからも。

ずっとママにこうして貰いたかった。


「大切にされてるみたいで、なんか良いね」


「みたい、じゃない。環のことが大切なんだ。もう俺のそばから離れるなよ」


長い間ぎゅっとしていたから体を離すと肌寒く感じて、すぐに毛布にくるまって眠りにつく。

私が寝るところなんてソファでも床でも構わないのに、涼介は私にベッドを譲ってくれた。涼介は別室で眠るらしい。




翌朝会社に行くと、朝イチにミーティングが開かれた。山下さんが「とにかく急ぎで」と企画を説明している。

「セパレートのストッキング自体は悪くねーと思うよ。周期的に膝上まであるブーツとか流行るだろ。ああいうのと同じで受け入れやすいんだ。

問題はガーターベルトだな。日本の女性ってやっぱり保守的なわけ。だからそうそう使われない」


山下さんが指先に引っ掻けたガーターベルトをくるくる回しながら話してる。初日には恐る恐る触っていたのにすっかり慣れたらしい。


「どうして?ただストッキングを留めるだけなのに。セパレートのストッキングがオッケーなら……」


「環くん、キミ童貞か? 普通の女性がこれ着けて、彼氏とかの前で服脱いだ時のこと想像してみろよ」


「セクシー?」


山下さんに聞き返すと「女心のわからん奴だな」と軽くため息をつかれる。これでも女なんだけどな……。


「普通は貞淑で上品に見せたいって思うんだよ。恥じらいがあるもんなの。

ガーターベルト着てたらその真逆っていうか、玄人じみて見えるだろ?『彼氏に引かれちゃう』ってな。」


「そういうものですか?」


「俺個人としては嬉しいけど、そういう男は少数派だろうな。涼介はどーよ?」
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