幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
話を向けられた涼介はうーん…と考え込む。

「下着の種類くらいで引くような男はどうかと思うぞ」


「何だよ、参考にならない意見だな」


「ただ、この前アップしたSNSの写真で『アンルージュ』のアクセスは飛躍的に伸びたんだ。そのわりにストッキングの売れ行きが増えないのは、山下の考え通りなんだろうな」


そうだったんだ…。だとすれば、あの写真は私の脚が写ってしまってるから。


「被写体をを変えれば?ちゃんとしたモデルさんに依頼した方が」


「ふふ、まだまだだな環くん。ああいうのは親近感が大事なんだぜ?素人が一番。モデルの脚はパンフだけで十分だよ。

あれで興味を持った女性は絶対いるんだ。あと必要なのはちょっとしたきっかけだ」


「きっかけ?」


私と涼介が声を揃えて質問すると、山下さんが黒とオレンジの魔女の衣装を広げる。ハロウィン用の仮装コスチュームらしい。


「うわぁ可愛い……!」


「気に入ったなら何よりだ。次はこれだよ、環くん。ストッキングと合わせて着ろ」


「え、俺!? 嫌ですよ、絶対無理!」


ぶんぶんと首を振って逃げようとすると山下さんに首根っこを押さえられる。


「女の子に着せたらセクハラって言われるだろ?大丈夫だ、お前の女装は見所があるから。」


「でも!!」


「ハロウィンイベントのモデルの衣装に、この俺様がアンルージュのストッキングとガーターを捩じ込んでやったんだぞ?

急な変更だから関係者への根回しが大変だったんだよなー…」


資料には、モデルさんがミニスカートからガーターの留め具を見せて着ている写真があった。スカートから太股に伸びる黒いラインがコケティッシュだ。

コメントには「普段と違ったセクシーな脚見せにトライ」と書いてある。この衣装は雑誌の特集や各種イベントで使われるらしい。


「『アンルージュ』の商品が雑誌に載るなんて…」


「だろ?この俺がここまでしてやったんだ。『アンルージュ』社員が親会社の販売戦略に楯突くわけないよな、環くん?」


「う……」


にやっと笑った山下さんに引きずられるようにして個室で着替えをして、ハロウィン用の衣装とストッキング一式を身に付けて会議室に戻る。用意された衣装には長髪のウイッグまでついていた。


「どうしてそんなに可愛くなってるんだよ、環……」
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