幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「だよな、お前すげーよ!男のくせに可愛過ぎ。いっそ毎日それで出勤してくれない?」
「冗談きついですよ」
山下さんがパシャパシャとSNS用の写真を撮っているので、シャッターの音を聞く度に長い髪のウイッグで顔を隠してしまいたい気分になる。全身女の格好をするなんて何年ぶりだろう。
「普段使いなら抵抗のあるガーターも、ハロウィンのコスプレならアリだ。これで試した人が気に入れば、普段もはいてくれるかもしれないだろ?」
「確かに、消費者の興味を引くきっかけとして良いかもしれないな。特集に合わせてキャンペーン価格を……」
涼介と山下さんが話してる内容は殆ど耳に入ってこない。頭の中にママの声が勝手に響いてくるからだ。
『校則だから仕方ないけど、できるだけママの前では制服着ないでよ。あなたがスカートはいてると気持ち悪いわ』
『武志さんには環のこと息子って紹介することにしたから』
「……環、顔色が悪いぞ?大丈夫か?」
「大丈夫……だけど今こっち見ないで……」
「環!?」
「環くん!?」
気分が悪くなって座り込むと、涼介が強引に撮影を止めて私は医務室に連れていかれた。
「……ごめん、また迷惑かけて」
「そんなことはどうでもいい。だけど環、お前」
「うん、急に具合悪くなったからもうバレてるよね。……本当は女装苦手なんだ」
涼介が眉間にシワを寄せて睨む。
「女装じゃないだろ」
「アンルージュのスタッフの制服も、本当は私だけ着られなかった。だから社長が特別にスーツの仕事着を作ってくれて。」
「どうして……」
「だって私が女っぽい服着たら気持ち悪いでしょ。自分でも気分悪くなっちゃうんだ。」
「気持ち悪いわけあるか!」
涼介の声は医務室中に響いて、しまったというように声を抑える。
「とにかく、落ち着くまで寝てろよ。仕事は無理するな」
動けるようになってからスーツに着替えて、午後は仕事に戻った。急に倒れたことを山下さんに謝ろうと思ったら、午後は山下さんも涼介も外出しているらしい。
定時まで仕事をして、買い物をしてから家でご飯を作る。涼介は残業で遅くなるようなのでしばらくの間は一人だ。
「少しは治ってるかと思ったんだけど。全然変わらないなー……」
社長は『いつか環ちゃんも女性らしい服を着られるようになるわ』と言ってくれたけれど、その『いつか』はまだ先のようだ。
「こら、ソファで寝たら風邪引くぞ」
ぼんやりしてる間に眠っていたらしい。涼介が心配そうな顔で見下ろしている。
「おかえり、涼介」
「体は大丈夫か?」
「全然平気だよ、ごめん大袈裟にしちゃって。医務室って一回行ってみたかったからむしろラッキーかも」
「お前はまだこういうときにラッキーって言うんだな……」
どういうこと?と聞き返す前に、涼介の腕の中に引き入れられた。昨日と同じ、恋人じゃない涼介のハグ。
「悪い。起きてるときにはずっと笑ってるから、ちゃんと気付いてやれなかった。」
背中まで腕の中にくるまれて、暖かな感触が心地いい。
「涼介が謝るようなことじゃないってば。こっちこそ迷惑かけてホントにごめ……」
「ごめん環。一度だけ、お前のことを傷付ける。これが最初で最後だから」
耳元でそっと囁れた涼介の優しい声音と、言葉の意味が全く合わなかったので「え?」と聞き返した。
「冗談きついですよ」
山下さんがパシャパシャとSNS用の写真を撮っているので、シャッターの音を聞く度に長い髪のウイッグで顔を隠してしまいたい気分になる。全身女の格好をするなんて何年ぶりだろう。
「普段使いなら抵抗のあるガーターも、ハロウィンのコスプレならアリだ。これで試した人が気に入れば、普段もはいてくれるかもしれないだろ?」
「確かに、消費者の興味を引くきっかけとして良いかもしれないな。特集に合わせてキャンペーン価格を……」
涼介と山下さんが話してる内容は殆ど耳に入ってこない。頭の中にママの声が勝手に響いてくるからだ。
『校則だから仕方ないけど、できるだけママの前では制服着ないでよ。あなたがスカートはいてると気持ち悪いわ』
『武志さんには環のこと息子って紹介することにしたから』
「……環、顔色が悪いぞ?大丈夫か?」
「大丈夫……だけど今こっち見ないで……」
「環!?」
「環くん!?」
気分が悪くなって座り込むと、涼介が強引に撮影を止めて私は医務室に連れていかれた。
「……ごめん、また迷惑かけて」
「そんなことはどうでもいい。だけど環、お前」
「うん、急に具合悪くなったからもうバレてるよね。……本当は女装苦手なんだ」
涼介が眉間にシワを寄せて睨む。
「女装じゃないだろ」
「アンルージュのスタッフの制服も、本当は私だけ着られなかった。だから社長が特別にスーツの仕事着を作ってくれて。」
「どうして……」
「だって私が女っぽい服着たら気持ち悪いでしょ。自分でも気分悪くなっちゃうんだ。」
「気持ち悪いわけあるか!」
涼介の声は医務室中に響いて、しまったというように声を抑える。
「とにかく、落ち着くまで寝てろよ。仕事は無理するな」
動けるようになってからスーツに着替えて、午後は仕事に戻った。急に倒れたことを山下さんに謝ろうと思ったら、午後は山下さんも涼介も外出しているらしい。
定時まで仕事をして、買い物をしてから家でご飯を作る。涼介は残業で遅くなるようなのでしばらくの間は一人だ。
「少しは治ってるかと思ったんだけど。全然変わらないなー……」
社長は『いつか環ちゃんも女性らしい服を着られるようになるわ』と言ってくれたけれど、その『いつか』はまだ先のようだ。
「こら、ソファで寝たら風邪引くぞ」
ぼんやりしてる間に眠っていたらしい。涼介が心配そうな顔で見下ろしている。
「おかえり、涼介」
「体は大丈夫か?」
「全然平気だよ、ごめん大袈裟にしちゃって。医務室って一回行ってみたかったからむしろラッキーかも」
「お前はまだこういうときにラッキーって言うんだな……」
どういうこと?と聞き返す前に、涼介の腕の中に引き入れられた。昨日と同じ、恋人じゃない涼介のハグ。
「悪い。起きてるときにはずっと笑ってるから、ちゃんと気付いてやれなかった。」
背中まで腕の中にくるまれて、暖かな感触が心地いい。
「涼介が謝るようなことじゃないってば。こっちこそ迷惑かけてホントにごめ……」
「ごめん環。一度だけ、お前のことを傷付ける。これが最初で最後だから」
耳元でそっと囁れた涼介の優しい声音と、言葉の意味が全く合わなかったので「え?」と聞き返した。