幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「いつまで『ママ』の言いなりで生きていくつもりなんだ?」



「何言って……」


聞き間違いかと思って涼介の顔を覗き込むと、真っ直ぐに見返してくる。


「母親の言いつけ守っても可愛がって貰えるわけじゃない」


そう言われた瞬間に胃がカッと熱くなって、涼介の体を力任せに押し倒した。


「その反応は図星だろ?」


涼介は仰向けになったまま、静かな声で追い討ちをかける。今まで余計な詮索なんか一度もしてこなかったのに、どうして急に酷いこと言うの。


「環が女の子らしくいることを否定したのはあの母親だけだろ。大人になってまで鵜呑みにするなよ。」


「違うよ!私がこんな見た目で、大柄で、可愛いのが似合わないからみんなっ」


「そう思い込まされてんだよ。気付け、性別の否定だって立派な虐待なんだ」


虐待?



背中にチリチリと疼痛が走る。心が真っ暗闇に落ちてしまいそうになり、その痛みを無視した。


違う私はそこまでカワイソウな子供じゃないしちゃんと愛されてたし、


「環だって本当は分かってるだろ。あの母親にされてきたことが何なのか。心に受けた傷も」


「違う!!止めて!」


吠えるように叫んで涼介の襟元に掴みかかる。


「環が認めるまでは止めない。環が自分の感情を認めないと、癒すことも出来ないんだ。

母親を否定するのは、別に悪いことじゃないんだぜ」


「ママのことが嫌いなんじゃない……!」


絞り出すように喋ったら、涙がぼたぼたと溢れて涼介の顔に落ちた。


「分かってる。大切に思ってるから苦しんでるんだろ」


「知ったようなこと言わないでよ!涼介に分かるわけないでしょ」


涼介の肩を床に押さえつける。力を入れすぎて腕ががくがくと震えた。


「わかるよ。どれだけ環のことを見てきたと思ってる?

ずっとお前に惚れてるんだ」


一体何を言ってるんだろう。今日の涼介は本当にどうかしてる。


「好きだ環。俺の女になって。
お前を苦しめるもの全部、俺が壊してやるから」


「私は、そういうのはいらない…。
一生、いらないから!」


涼介が体を起こした。馬乗りになって動けないようにしていたつもりなのに、いとも簡単に抑えを解かれる。


「恋愛は環が思うほど悪いものじゃない。

幸せになれるって俺が証明してやる。それから、環がどれだけ可愛い女かってことも」
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