幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「嫌だ…!嫌だ嫌だ!ワケわかんないことばっか言うならもうほっといて!!」


怒りに任せて扉を閉めて、その後はずっと寝室に閉じ籠っていた。

ただでさえ気持ちがぐらぐら沸騰しているのに、急に『恋愛』とか未知な物を投げ込まないで欲しい。怒りをどこにぶつけて良いかも分からなくなる。


翌日もずっとムスッとして過ごし、それなのに涼介は全く普段通りだった。夕食後はご機嫌でお皿を洗ってる。


「今日も旨かった。怒っても美味しい夕飯を作って待っててくれるから、環は優しいよな」


「だって怒られて夕飯抜きになるのはすごく嫌だったし…って、そうじゃなくて。

私が怒ってるの分かってるんだよね!何でそんなフツーにニコニコ話しかけてくるの?」


「環が俺に怒ったのは昨日が初めてなんだよ。だから嬉しくてさ」


「はあ!?」


何を喜んでるのかさっぱりわからない。


「長い付き合いで初めてだぜ?
いつも笑って誤魔化されるから、環が感情をさらけ出すようになっただけ進歩だろ」


「それのどこが進歩…」


「俺たちの仲だよ。言ったろ好きだって。」


「ーーーーッ!そゆことあっさり言うな!無かったことにしてたのに!!」


「あはは、威嚇する猫か」


反論しても意にも介さず、涼介は笑いながら食器を片付ける。この数日のうちに食器を洗うのは涼介の分担ということになり、慣れなかった手付きもすっかり上達していた。



「でも、無かったことにするのは、ナシ」


「…わ、ちょっとっ!」


唐突に体を引き寄せられ、それはこれまでのハグと何かが違ってた。ぎゅっとタイトに背中に手が回されて涼介の脚が太腿の内側に押し入ってくる。


「っ……待って」


「これで忘れない?俺が環を好きだって」


「ね、昨日から涼介らしくないよ……」


クスッと笑う気配がして、首筋がくすぐったくなった。涼介の息がかかっただけなのに、感覚が集中して体がびくっとなる。


「らしくない?環にはそう見えるのかもな。でも友達の顔するのはもう止めたんだ」


涼介がこちらを向いて、二度瞬きをする間に唇に何か触れた。


「……!」


顎に手がかかり、唇が重なってる。この状況がキスだとわかったのは、縫い止められたみたいに体が動かなくなった後のこと。

唇が離れた後も涼介にじっと見つめられて、
よく分からない感情で顔が真っ赤になる。


「っ……」


「今の環は俺が差し押さえ中だって忘れるなよ。俺の元にいる限り、恋愛を毛嫌いするのは禁止。

………一度くらい俺のこと男として見ろよ」

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