幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
「……それでね、山下さんが仕事帰りのOLさんが買い物しやすい場所の条件を教えてくれたんだ」


夕食を食べながら、涼介と今日あったことを話してる。


「あいつは店舗のプロデュースが得意だから、よく意見を聞くといいよ。

……それはそうと今日の夕飯もマジで旨いな」


「無理に褒めなくてもいいって。フツーのしょうが焼きとサラダとお味噌汁だよ」


相変わらず少ない調理器具で作るので簡単なメニューになってしまう。何も特別な所がない普通の夕飯なのに、涼介はいつもびっくりするほど喜んでくれる。


「普通の飯が旨いって最強だろ。それにこの味噌汁、具に鮭が入ってるのが意外でいいな」


「ありがと、鮭とキノコで秋っぽくしたんだ。食事もお店のレイアウトと一緒で季節感が大事って山下さんが言ってたから」


「食事も?」と不思議そうな顔をする涼介に昼間のことを説明した。山下さんは商談に行くついでと言って青山にあるお店を案内してくれて、お洒落なカフェでお昼ご飯までご馳走してくれた。


「あのランチの味を再現できたら、涼介にもっと美味しいご飯を作ってあげられるんだけどね」


「店で食う飯よりこのままの方がいい」


涼介はそっけなく話を畳んで、食事の片付けが終わると「ひとつ確認だけど」と私を呼び止めた。


「俺が環を好きだってことはわかってるんだよな?」


「えっ……あの、ええと」


「その様子は忘れてないな。その上でずっと他の男の話をするのは、俺を焚き付けたいってこと?」


持っていたアンルージュの資料を取られて手のひらが重なる。真顔の涼介と目を合わせるのが苦しくなって横を向くと、もう片方の手で顔を正面の向きに変えられた。


「なんで、そんな…っていうか、山下さんは私を男と思ってるし」


「だとしても、気を許し過ぎ」


涼介が近付いて、手を握られたまま体を壁に押し付けられる。
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