幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
キスをされるのかと思ったけどそうではなくて、慣れない距離感がもどかしくて変な感じがした。


「そういう目をするのは反則だろ」


「ね、調子くるうから止めてって……」


「止めないよ。お前を好きでいることも、好きな気持ちを伝えるのも止めない」


ドクンと心臓が跳ねて、切なげな表情をした涼介から視線を動かせなくなる。

これ以上涼介を見つめたら駄目だ。こっちは危険、何故だか分からないけど自分が自分でなくなってしまう気がする。


「困ってる顔も可愛い」


「そんなわけないでしょ!お世辞でも言われたこと無いよ」


私はせいぜいイケメンと言われるのが関の山で、可愛いとは真逆の容姿をしてる。


「環は本当の自分を知らないだけだ。

虚勢を張っても、短い髪でも、男の格好をしても全然隠せてない。そろそろ気付いた方がいいぞ」


その後で涼介は「おやすみ」と眠りについた。昨日は抱き締められたりキスをしたから、今日もそうなのかなって身構えたんだけど……。


「いやいやいや、してほしいっていうんじゃなくて!昨日と違うって思っただけで!」


誰に言うでもない言い訳をして私もベッドに潜る。眠くはならないけれど何かにくるまっていたい気持ちだった。


それからというもの涼介は毎日のように「可愛い」とか「綺麗」とか言うようになって、その度にどう返事したらいいか分からずにモヤモヤした気持ちになる。


「もう、涼介の美意識が残念なのはよーく分かった!」


「残念なのは環の方だよ。これまで自覚がないなんてどうかしてる。普通にキレイとか言われてたろ?」


「ない、全然ない!涼介もよく知ってる通り!」


男子からの私の評価なんて、中学の時に『たまきん』とか『巨人』とか言われてただけ。


「いや、中学の時じゃなくてその後だよ」


「高校は女子校でバスケばっかりしてたから、身の回りの男の人なんてママの彼くらいだったしなぁ。

あ、でもママは私を息子って紹介してたから『格好いいね』って言われてたし」


「さらっと凄い事言ってるぞ……。卒業後はずっとアンルージュか?」


「ううん、三年前までバスケの実業団にいたよ。契約打ち切りになって、アンルージュはその後に勤めたんだ。」
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