幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
涼介が驚いた顔をしてる。そういえば過去のことをきちんと話したことはなかったかもしれない。


「プロだったのか…確かに中学の時からずば抜けて上手かったから、そうだよな…」


「どうだろ、バスケ以外知らなかっただけかも」


中学の時には練習時間が長いからという理由だけでバスケ部に入った。家にいる時間が短くて済むから練習は苦じゃなかったし、それなりに上達もした。

スポーツ推薦で入った高校はレベルが高すぎて授業についていけなくなったけど、それでもバスケさえやっていれば進級できた。


私はいつの間にかバスケ以外は何も出来なくなっていた。


だから選手契約を切られた時には途方に暮れて、あの頃の私を拾ってくれたアンルージュの社長にはどれだけ感謝しても足りない。


「選手だった頃の環を見たかったな。知っていれば試合を見に行ったのに」


「ふふ、見たら驚くよー。とにかく女の子にすっごいモテたからね!」


涼介が「黄色い声援を背負ってる環は想像つく」と笑っていた。


「お前はずっと女社会で生活してきてきたんだな。そりゃ「イケメン」としか言われないわけだ」


「んふふ、モテまくりの環サマが羨ましいか」


「そういう環境にいて環に悪い虫が着かなかったのには感謝するけど、そろそろ呪いを解いてもいい頃だと思うぞ。」


呪い? 涼介の意図が分からず首を傾げる。


「深く考えなくていいよ。それより明日は外に飯を食いにいくから残業しないように。毎日料理してたら大変だろ」


「料理くらい別に良いのに」


この時の私は、近所のお店にご飯を食べに行くことくらいしか想像していなかったので、翌日の夜になって魔女の衣装を渡された時には何の事やらさっぱり分からなかった。


「えぇ……?何でこれ?」


「何でって、ハロウィンだから。今日くらいしか着る日無いだろ」
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