幼なじみの甘い牙に差し押さえられました
でも涼介は、私がその衣装を着て気持ち悪くなったのを知ってるのに。不満が表情に表れてたのか涼介は「睨むなよ」と笑った。


「『アンルージュ』の売り上げに関する重要な話がある。聞きたいなら着替えて来いよ」


そう言われると断るに断れず、しぶしぶ着替えて扉を開ける。


「やっぱり可愛いな」


「いや変だって!絶対ヤバイ人に見られる。うぷ、もう気持ち悪くなってきた……」


涼介に手を引かれて、恐る恐る外を歩いていく。イベントのせいかいつもより街中に人が多い気がする。


「心配しすぎ。今日はゾンビの格好した奴だって普通にその辺歩いてるんだから」


「確かにそれなら女装くらい目立たないかもね……」


「女装じゃねーよ」


涼介は恵比寿のお店を予約しているそうで、目的の場所は綺麗な石畳の広場を抜けた先にあった。

人に視線を向けられる度にママの声が頭に響いたけど、涼介が「大丈夫だから」とかき消してくれる。

大丈夫、今日はハロウィン。思い思いの仮装した人が街中を闊歩する不思議なお祭りの日だ。レストランもハロウィン仕様になっていて、店内にも仮装をしたお客さんがちらほら来てる。


「なんか周りに見られてる気がする……」


「そりゃ見るだろ。キレイなお姉さんが露出度高めの可愛い服着てるんだから。

今日は普段の調子で足開いて座るなよ」


涼介に言われて膝を閉じる。太ももにフワフワしたチュールが広がっていて、黒いパールとリボンの飾りがキラキラと揺れた。

ジャック・オー・ランタンの装飾がついた可愛いお酒が運ばれて、小さく乾杯をする。


「このグラス可愛い……!」


「やっぱり、本当は少女趣味だよな」


「少女趣味で悪いか」と文句を言おうとしたけど、涼介が嬉しそうな笑顔を見せるから悪態をつくタイミングを失う。最近の涼介の態度に馴れないのは相変わらずだ。


「見せたいものがあるんだ」


涼介が携帯を取り出して、画面を見るとアンルージュのSNSが開いていた。今と同じ魔女の衣装を着た私の写真が載っている。ウィッグを着けてるから今の私とは多少違っているにしても…


「こんなの載せたの!?」


「環にはこういう方が分かりやすいと思ってな。見ろよこの反応、似合ってなかったらこうはならないぞ」


びっくりするほどの「いいね」とコメントの数々。ぼけっと見ていると涼介が鞄から資料を取り出していた。


「これがストッキングと衣装の売り上げ推移のグラフ。写真を掲載した日から右肩上がりだろ?アパレル部門から感謝されたくらいだ」


「すごい……売れてる……」


「これで分かったか?環は可愛いんだ。誰が見ても可愛いし、俺にとっては世界一可愛い」


「……」


涼介の言葉に顔が熱くなる。多分今はゆでダコのようになってるはずだ。


「まったく、環は頑固な上司かよ。『可愛い』って伝えるのに数字を見せることになるなんてな」
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