家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「あの、……えっと実は」
だけど、レイモンドに嘘をつくのかと思うと気が重かった。身寄りがないと言ったロザリーを雇ってくれた彼を、この状況になってまで騙していたくはなかったのだ。
「ごめんなさい。実は、おじい様なんです」
「ロザリーの? 身寄りがないと言っていなかったか?」
「父母は事故で死にました。彼は、父方の祖父なんです」
「そうか。……ずいぶんと身なりのいい……」
レイモンドは手を止めることのないまま視線を奥のテーブルに移し、何やら考えている様子だった。
それからしばらくして、洗い物をしているロザリーを呼ぶ。
「ロザリー、運んでくれ。ケネス様たちのテーブルだ」
「私が……ですか?」
「ついでに休憩していい。事情は分からんが、お前に会いに来てくれたんだろう。ゆっくり話してこい」
どうやらレイモンドは気を使ってくれたらしい。
ロザリーはディナープレートを左手に二つ、右手に一つ持ち、祖父のいるテーブルまで行く。
「お待たせしました」
祖父の視線が動く。
ロザリーは緊張しつつ、奥から注文の品を出していった。
全部出し終えてから、ぺこりと礼をすると、祖父の香りがふっと鼻をかすめ、なつかしさに胸がキュッと軋む。
「ずいぶん、しっかり動けるようになったんだな」
「はい。いろいろなこと、覚えました。おじい様、働くって大変なことなんですね。だけど楽しいです。私が動いたことで助かる人がいるんですもの」
「そうか。お前の口からそんな言葉を聞けるとは思わなかった」
「教えてくれたのは、この宿の人たちです」