家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
ロザリーが厨房のレイモンドを振り返る。彼は両手がふさがっていて、ぺこりと軽く会釈だけを返した。
目配せでレイモンドとやり取りしたザックはロザリーに椅子を勧める。
「ロザリー、こっちへ」
ロザリーはテーブルの空いた席に腰掛けた。
「……こちらのイートン伯爵家のケネス殿とザック殿から、大体の話は聞いた。お前がダドリーたちのことを思い出したことも」
「はい」
「ここに来た目的は果たしたんだろう? ……帰ってこないか、ロザリンド」
祖父の声は優しかった。もともと、外聞もあっただろうがロザリーを心配して旅に出るのを反対していたくらいだ。
「……でも、私」
「今後のことも、何も心配することはない。実は、……病気を理由に断った縁談だがな? お相手の将校殿が絵姿を見てお前を気に入ってくれたらしい。あの後、何度も会いたいと言ってこられ、病がひどいのならば自ら名医の手配をするとまでおっしゃってくれている」
「え? あの軍人将校様ですか? 絵姿で?」
十歳年上の軍人将校の絵姿はロザリーも見たが、正直年上すぎてピンとこなかった。
ロザリーの絵姿だって、多少本人より良く描かれてはいるが、しょせんは十六歳だ。きっと相手も幼く感じるだろうと思っていたのに。