家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「でも、それって犬に対するものみたいなんじゃないんですか? ペットみたいに傍に置いておきたいだけで」
「なんでいきなり犬が出てくるんだ。俺がいつ君をそんな風に扱った?」
「でも。だって」
頭が混乱する。だってロザリーは彼の隣を望めるような立場じゃない。ザックが本当に伯爵家の遠縁くらいなら何とかなるだろう。腐ってもロザリーとて男爵令嬢だ。だが、王子の相手になど、なれるはずがない。
「身分違いじゃないですか……!」
その瞬間、ぼろりと涙がこぼれだした。自分でも焦って慌てて顔を隠すと、ひょいと腰回りを掴まれて抱え上げられた。
「ルイス卿、しばらくロザリーをお借りします!」
誰が止める間もなく、ロザリーはザックによって店の外まで連れていかれる。
エイブラムには声をあげる暇さえなかった。店の客たちは、彼がロザリーをさらっていったという場面のみを見て、「ひゅーひゅー」と冷やかしの声をあげている。
「えー、あー。うちの身内が申し訳ありません。ルイス男爵」
心の中ではザックをぼろくそにののしりつつ、ケネスはその場を取り繕ろおうと穏やかに男爵を仰ぐ。
男爵は呆けたような表情で、ふたりが消えた扉を見つめていた。