家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「……あの子。泣いていましたな」
「そうですね」
「本当に、感情が戻ったんだな。……良かった」
ルイス男爵は善良である。そう判断したケネスは、おもむろに話を勧めた。
「もしよければ、ロザリンド嬢をイートン伯爵家にお預けくださいませんか? 結婚前のご令嬢ということを考慮し、彼女に悪いうわさが立たないよう、私がしっかり監視します。……ザックにとっても、彼女がいることでいい変化が訪れている気がするのです」
「伯爵家に?」
「相手が誰になるかは置いておいても、彼女が最良の結婚相手を見つけるまで責任もって保護いたします。もちろん、あの男の行動もちゃんと私が監視しますので」
ルイス男爵はしばらく考え込んだ。
ザックから、息子夫婦の遺品と手紙を返してもらって、ロザリーの感情が戻ったことを知り、彼はロザリーを迎えに行くことを決めた。縁談のこともあったし、可能なら自分が元気なうちにロザリーの将来を任せられる男を探したかった。
男爵家にはほかに跡継ぎがいない。エイブラムが死ねば爵位は返上だ。その前に後継人として、エイブラムには彼女の嫁ぎ先を見つける義務がある。
だが、ロザリーがそれを望まないのならば。ここにいて、働くことに幸せを見出しているのなら。それも悪くないかと思えた。
「……よいのですか? なんの縁故もありませぬのに」
「おもしろいお嬢さんですよ。彼女がいると、なぜか楽しくなります。この宿の人間がみな、そう思っているでしょう。それに縁故は、あいつが意地でもつくりそうですしね」
ケネスはザックが消えていった扉を苦笑しながら見つめる。伯爵家に連れてきたときの憔悴しきった様子とは打って変わった最近の楽しそうな様子に、何としてでも協力してやらなければならないと感じている。
「……よろしくお願いいたします」
うやうやしく頭を下げたルイス男爵に頭をあげさせるのに、それからケネスはしばらく苦労した。