家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました

緑色の瞳にのぞき込まれ、胸のときめきは最高潮だ。

「……だって、身分違いじゃないですか」

「俺の母親は侍女あがりだぞ? それに比べれば、男爵令嬢なら上々だろう。大体、俺がそんなこと気にすると思っているのか?」

「ザック様が気にしなくったって周りは気にしますう!」

「そんなものは説得すればいいだろ。ダメなら放っておけばいい」

「横暴ですっ……!」

「あのな」

何を言っても言い返され、ザックは途方に暮れて頭をかく。

「この場合、大切なのは俺と君が好きあっているかどうかだけだと思うんだが。まあ、……君が俺を好きじゃないなら、たしかに俺は横暴だろうな。悪かった」

背中を向けられ、ロザリーは焦る。
途端に立っている地面が無くなったような心もとなさだ。いつもザックが見ていてくれただけで、自分がどれだけ安心していたかを思い知らされる。

「え、待って。そういう意味じゃ……」

ザックは振り返らない。それどころが歩き出してしまった。
置いて行かれると思ったら、不安と恐怖で足がすくんだ。

だけど、胸の奥からロザリーを応援する声がする。尻尾を振って、耳をぴくぴくとさせて、言葉が通じないから、全身で大好きを訴えるリル。

『ワン!』

大好きは、伝えようとしなければ伝わらないのだ。誤解されたら、分かってもらえるまで何度でも言わないと。
でないと自分が寂しくなるだけ。
繋がれていたリルは、最後はいつも置いて行かれる。
だから、大好きな人が一緒に居るときは、いつだって後悔しないように『大好き』と尻尾を振っていた。

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