家出令嬢ですが、のんびりお宿の看板娘はじめました
「いや……! 待って。待ってください、行かないで」
立場とか考えていたことが全部頭からすっ飛んで、ロザリーは本能でザックに追いすがった。
「行かないでくださいってば。離れないで。私だって……大好きですぅ」
ぴたりとザックの足が止まる。涙にぬれた目で見上げれば、彼は耳のあたりを赤く染めながら、くっくっと笑っているではないか。自分が言ってしまった告白が頭の中でリフレインして、ロザリーも真っ赤になる。
「も、もうっ。ひどいですっ。必死だったのに。なんで笑うんですか」
「いや、ごめん。これ一応喜んでんだけど」
「嘘っ、絶対馬鹿にしてるし!」
「してないよ。嬉しいって」
体ごと振り向いたザックは、軽くしゃがんでロザリーを抱き上げた。
まるで子供が抱き上げられているような状態になり、やっぱり子供か子犬扱いじゃないかとふくれてみせるロザリー。その拍子に、ポケットに入れていた扇が落ちた。
「あ、扇が」
ザックの腕から飛び降りるようにして逃れて、ロザリーは扇を拾う。広げてみても汚れてはおらず、ホッと息をおろした。
「使ってくれてるんだな」
「もちろんです。素敵ですもん」
「知ってるか? これはこういう時にも使える」