大逆転ラヴァー
「夏樹がまたこの街に、か」
通学途中に立ち止まり、ポツリと呟いたのは家の近くにある桜並木。
今は紅葉する季節だけど春には桜が綺麗に咲き誇って、私はその度に夏樹のことを思い出していた。
サラッとした黒髪と大きな瞳、それから笑うと見える八重歯が印象的だった夏樹。
小さい頃、よくこの桜並木の下で一緒に遊んだっけ。
夏樹はいつも、上から舞ってくる薄桃色の桜の花びらを小さな袋いっぱいに拾い集めていた。
それを私の髪の毛にチョコンと乗せて無邪気に笑ってて…天使みたいに可愛かったなぁ。
夏樹が天使なら私はきっと悪魔だ。
天邪鬼だった私はいつも夏樹を泣かせてた。
私の髪の毛に桜を乗せた夏樹が『可愛いね』って言ってくれたことが嬉しくてパニックを起こし、
『バーカ!バーカ!』って怒鳴り散らしちゃうし。
照れ隠しの方法がまた最悪で、夏樹が一生懸命集めた桜を袋ごと奪い取り、そこら中にばら撒くという最低な意地悪をして泣かせちゃったり…
ああ、もう…
思い出せば出すほど苦さが広がる最低最悪な記憶しかない。
神様、仏様、もう誰でもいいからお願いします。
どうか、どうか…夏樹と会いませんように。
合わせる顔がなさすぎる…。