【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「少しは気をお抜きなさい。貴方がそんなふうだと、皆の息が詰まってしまいます」
先々帝の第六公子として生まれ、辺境で育った黎祥。
黎祥の上には他三人の公子(第三公子は生後まもなく死亡)がいたにも関わらず、何故か、いつも先帝に命を狙われていたのは自分だった。
もしかしたら、母が念昭儀だったからかもしれない。
念昭儀は、父が『紅仙』と愛称を付けるほどに寵愛した女であり、若くして、黎祥を産んだ。
文武を好む、とても快活な女性で、黎祥に剣の使い方などを教えたのは母であった。
「祥星様は下町は気が抜ける、とても良いところと仰っていたのだけれど……貴方もそうだったのかしら」
「……」
何故、彼女が知っているのだろうか。
まぁ、驚くべきことでもないか。
彼女のそばに黎祥の密偵がいるように、こちらにも彼女の密偵がいたということだけだろうから。
「忘れられないのなら、無理して忘れてはいけませんよ」
「え……」
「愛を語るのに、身分は関係ありません。後宮は朝廷を操るのに、大事な場所ですが……御心の乱れたまま、後宮に通ったとしても、世継ぎは期待できない。どうせならば、覚悟を決めてからお行きなさい」
父が、黎祥の母を愛していた時。
ただ、一途に深く、愛していた時。
普通ならば、皇太后などは遠ざけられる。
それなのに、彼女は遠ざけられることは無く。
先々帝は寵妃を大事にするように、柳皇太后を尊重し、信用し、そして、妻として愛した。
女性として愛していたかは不明だが、先々帝にとって彼女が大事な存在であったことは、先々帝時代からの信頼出来る重鎮が語ってくれた。