【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



『よく、仰られていました。"翠蘭は私の大切な家族であり、妻であり、公子の母であり、右腕であり、何よりも……私が愛するべき、民の一人である”と』


先帝のことは、恨んでいた。


国を滅ぼそうとしたことは、まぁ、いい。


滅んでも、また、作れるから。


けれど、そのせいで失われた命は二度と戻ってきやしない。


民の命を粗末に扱える、先帝が許せなかった。


後宮を追われたせいで亡くなったかもしれない母は、最期まで父への恨み言を吐くことは無かった。


ただ、置いていくことしか出来ない黎祥への謝罪、幸せそうな、晩年。


そして、清々しい笑顔での、黄泉への旅路であった。


「義母上」


「何ですか?」


「……私のことを、恨んでおいでですか」


父には、十七人の子がいた。


別に、父が艶福家だった訳では無い。


自由に生きて、自由に微笑みかけた。


黎祥の母に出会う前も、また、出会ったあとも、父はきちんと、他の妃にも夜伽をさせていたという。


その結果が、十七人だ。


最も、先帝に加担したものは、皆、処刑台に登ったのだが。


先帝だけは、黎祥が討った。


愚かで、弱くて、自信の無い男だった。


そんな先帝の母は、柳皇太后なのだ。


「恨むはずがないじゃないですか」


はぁ、と、柳皇太后はため息をついて。


「わらわが、貴方に頼んだのですから」


「……あの日のことは、今でも忘れませんよ」


「わらわもです。貴方はとてもとても、祥星様に似ていられるものだから……だからこそ、勇成(ユウセイ)は貴方に怯えたのかもしれませんね」


淑勇成―先帝の名前であり、柳皇太后の息子。


黎祥が、この手で殺した人間。


そして、その依頼をしたのは……紛れもない、目の前の柳皇太后であった。



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