【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



「雄星、今日は皇帝としてお前を呼んだのではない。私が個人的に、兄として二人を呼んだんだ。だから、そう固くなるな」


「ほら!雄兄上!黎祥兄上は特に気にしてないよ!」


「きょ、恐悦至極の身にございます……。高星のその能天気さ、羨ましいな。僕」


「えー?」


黒髪をひとつに括った高星は、けたけたと笑う。


「兄上!手合わせしよっ!!」


……その姿は、幼き日の自分のようだった。


自分の面影が重なり、黎祥は目を細める。


(もう、戻ってこない)


どれだけ後悔しても、願っても、必ず、時は前に進む。


「ああ」


そっと、高星と雄星の頭を撫でて。


「お前達は、後悔ないように生きるんだぞ」


黎祥がそう言うと、高星は目を丸くして。


「?どうしたの、兄上。俺は後悔なんてしたことないよ?」


「高星」


「……したことないですよ」


雄星に睨まれて、言い直す高星。


その光景がどうも面白く、自分にはなかった兄弟の仲の良い姿に笑みが漏れる。


「フッ、ハハハッ……、雄星に頭は上がらないか、高星」


「っ、そうなんだよ!雄兄上ったら、厳しくて……」


「高星が無作法すぎるんだ。兄上といえど、今上陛下ってことを忘れてはだめだろ」


「兄として、俺達と鍛錬してくれるって言ったじゃん!ね!?兄上」


二人との初対面は、革命後だった。


でも、二人の態度は畏怖ではなく。


ただ、純粋に黎祥を慕ってくれている。


その純粋さを、汚してしまいそうな自分が嫌だ。


「そうだな」


黎祥が頷くと、


「だから、良いだろ?雄兄上」


と、高星は詰め寄る。


雄星はため息をついて、


「―皇恩に心より感謝申し上げます」


と、一度拝礼すると。


「公の場では、ちゃんとしてよ?高星」


と、柔らかく笑った。


「分かってるって!」


それに笑顔で返した高星もまた、天に輝く陽のように輝いていて、弟達の眩しさに黎祥は目を細めた。


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