【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「この位置だから……貴妃の住まいである碧寿宮はギリギリ見えないね。でも、太上皇陛下や皇太后陛下の住まいである夏宵宮(カショウキュウ)や、皇后陛下が住まわれるべき秋宵宮(シュウショウキュウ)、皇后陛下と皇帝陛下が共に夜を明かされる春宵宮(シュンショウキュウ)は見えるんじゃないかな」
博識な雄星の言葉に、
「ん?冬宵宮(トウショウキュウ)っていうのはないの?兄上」
と、高星は不思議そうに返す。
「冬宵宮は、皇帝陛下の独り寝の為の殿舎だよ。ここからは見えないというか……真横じゃん。近すぎて、見えないの」
「真横?―あ、あの宮殿、冬宵殿だったんだ」
高星が本気で驚いていると、横で雄星は呆れて。
「後宮内に住んでいるんだから、それぐらいは知っておこうよ。高星」
「あー、ハハッ」
正直、高星に机につけというのは、かなり難しいと思う。
じっとしておけなかった、昔の自分に似ているから、妙な確信がある。
「あ、じゃあさ、すぐそこの門は……」
「それは、龍鳳門。龍鳳門を越えた先が、皇宮、でしょ?師(センセイ)に習わなかったの?」
「聞いてなかった!」
堂々と言った高星の額を指で弾き、雄星は頭を抱える。
「ちゃんと聞かないと、ダメでしょ!?」
我が弟ながら、苦労しているらしい。
まぁ、こんなに破天荒な弟だと、大変か。
「―クククッ、まぁ、良いじゃないか。私も、昔は嫌いだったよ。いや、今も嫌いだな。机仕事は退屈だ」
黎祥がそう言うと、真正面から
「だよな!雄兄上のそういう所、俺、尊敬してる!!」
と、素直に言う高星。
「何言って……」
照れる雄星の姿を見ながら、その頭を撫でる。
「お前は博識だな」
「……厚かましい願いだとわかっていますが、いつかは誰かを守る、陛下の……黎祥兄上のようになりたいのです。病弱だから、王にはなれません。代わりに、少しでも……兄上を、兄上の子供を、助けていきたいんです」
「それが、お前の夢か?」
尋ねると、はにかんだ雄星。
「じゃあ、はいはい!俺は兄上とその子供を守れるくらい、強くなる!」
高星も便上して……素直に、そんな未来が来ればいいと思う。
雄星の説明は的確でわかりやすいが、そんな簡単に語れるほど、この後宮も歴史は浅くない。