【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「―あ」
回廊の影、木の根元。
少しだけくぼんだ部分にあった、綺麗な細工の鞠。
大輪の薔薇が描かれたそれを手に取り、翠蓮は彼女の元に行った。
「見つけましたよ!はい、どうぞ」
手渡すと、震える手でそれを手に取って。
「ああ……殿下、殿下……」
鞠を抱き締めて、それを愛おしむ。
くず折れたその姿を見て、やはり思う。
皇族だろうが、貴族だろうが、平民だろうが、奴婢だろうが、男だろうが、女だろうが。
誰もが生きている。
誰もが懸命に、命を燃やしてる。
一回しかない人生を、やり直しのきかない人生を、懸命に、生きている。
そこに命の価値とか、関係ないんだ。
皇族も、奴婢も、関係ない。
偉い人にとって奴婢が空気のようなものだとしても、それでも、忙しく辛い毎日を奴婢達も必死に生きているのだから。
彼らの価値を、身分で決めるものでは無い。
上の人間が決めていい、決まりはない。
命はそんなに、簡単なものでは無いのだ。
だから、目の前で嘆いている貴女を見ても、翠蓮は驚かない。
恋愛だって、身分は関係ない。
好きな人に嫁げぬ御時世だからこそ、心を殺している人がいてもおかしくはない。
人を好きになるのに、身分事情はいらないのだ。
だから、彼女が誰かを、夫以外の人を愛しんでも良い。
―例えそれが、先々帝の皇后であり、現皇太后であり、黎祥の義理の母である柳皇太后だったとしても。