【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「一番、近く……?」
それは、つまり……。
「妃として、入宮するのじゃ。顔は隠して、名前も本来のに戻せ。幸い、李将軍の娘御は後宮に居らぬじゃろ」
予想があたり、翠蓮は全力で首を横に振った。
「だめ!」
「……何故?」
「妃として入ったら……逃げられなくなる」
「何から」
「……」
飛燕の言葉に、翠蓮は答えなかった。
「人を救いたいんじゃろ?」
強い、風が吹く。
揺れる。
木々の音が、翠蓮を追い詰める。
「今が決断のときじゃ。翠蓮、逃げるな」
「……っ、」
「人には、"初めて”という経験はいつでもあるじゃろ?それを今、体験するだけじゃよ」
飛燕は『大丈夫じゃ』と笑う。
「でも……今、後宮では栄貴妃が寵愛されているわ……」
「じゃから?」
「つまり、恨みは全て彼女に行く。少なくとも、後宮内でしか、事件は起こらなかった!親王やその王妃、女官、宦官、下級の妃……栄貴妃だって、皆、後宮!内楽堂のことも……それなのに今、ここを離れるの?その間に、栄貴妃や……みんなが死んだら、どうするの?人の命は、取り返せないのよ!?」
飛燕に詰め寄ると、優しく微笑まれて。