【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「それにしても、内楽堂、途中で放り出す形になってしまったわ……」
気になるのは、そこらしい。
でも、心配はいらない。だって。
「大丈夫ですわ。きちんと、引き継ぎしてきましたから」
「え、本当?」
「ええ。嵐雪さんに任せてきました」
後宮入りするにあたって、必要なことは全て、果たしてきたはずだから。
これから、翠蓮は李家で知識を叩き込まれる。
怖いような、どこかしら、わくわくするような……変な気分。
「そう……」
「それに、彩姫様にもお願いしてきましたから!」
「叔母様にも?」
「ええ。ですから、何も心配せず、自分が幸せになることを考えてくださいな」
そう言うと、彼女は
「ええ!」
と、深く頷いて。
「じゃあ、まず、私、水汲んだりしてくるわ!」
「えっ!?いやいや、私がしますよ!」
「ダメよ。お妃様になるのなら、指先を荒れさせる訳にもいかないわ。これでも、内楽堂に居る時に、だいぶ手馴れたのよ。最も、ここは翠蓮の家だもの。勝手は出来ないから、横で見張ってて」
「ええ、そんなぁ……」
この家を好き勝手に使ってもらうのは別に構わないのだが、先帝の子女で、見つかれば処刑の可能性もあるといえども、元皇女を使うなんてそんなおこがましいこと、翠蓮にはできるわけもなく。