【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
***



その場所は、後宮の深まったところにある。


滅多に足を踏み入れないそこに足を踏み入れれば、周囲の人間が沸き立ったのを肌で感じた。


「……これは、陛下。どうなされました?」


後宮の女官長に尋ねられ、黎祥は事のあらましを話した。


彼女は母と黎祥が辺境に飛ばされてからも、親身に世話に徹してくれたため、女官長に任命したのだ。


常に冷静で、表情が面に表れにくい彼女だが、信頼はしている。


言うならば、後宮内の間諜(スパイ)である。


「女官長、内楽堂に行こうと思うのだが」


「内楽堂へ?」


「構わないだろうか」


女官長は変わり映えしない表情のまま、


「……ええ、まぁ、大丈夫でしょう」


間を置いて、曖昧に頷いた。


「"あの方”の様子が、少しおかしいですが……行動は移さないでしょう。念の為、明景を連れて行ってくださいませ」


女官長に声かけられて、顔を出したのは……。


「お前は、栄貴妃の宮に勤めていなかったか?」


見た事のある顔だった。


「ええ。栄貴妃様にお世話になっていたのですが……」


「私が腕を信頼して、買ったのです。私の右腕ですので、ご心配なく」


違和感の感じる、明景という女の表情。


笑っているのに、笑っているように見えない。


とりあえず、輿に乗り、後宮の様子を中から眺める。


(……明景の、腕を……)


買った。だから、昇進させた。


そんなことは、後宮内で良くあることだ。


黎祥が気になっているのは、それ以外の……。



< 364 / 960 >

この作品をシェア

pagetop