【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
『ええ。栄貴妃様にお世話になっていたのですが……』
あの笑顔は、何かある。
裏がある。
女官長が持ち上げたのは、本当に腕を買ったのか?
そして、買われたからと言って、女官長に付き従うのか?
女官長に任せているのは、主に先々帝や先帝の妃の世話である。
確かに教養が必要なものであるのは確かだが、他の妃ならいざ知らず、栄貴妃付きだったなら……例え、偽りであれど、表向きには寵姫である栄貴妃の傍にいれば、出世街道まっしぐらだったのではないか。
(明景という女が望むのは……出世ではない?)
「―陛下。着きましたよ」
ひとつの結論に至った時、外から掛かった声。
黎祥は輿から降りて、内楽堂に目を向ける。
傍に建つは、緑宸殿。
先々帝の貴妃、蘇貴太妃の住む屋敷である。
第二皇子・流雲兄上の母君だ。
最も、最後に、顔を拝んだのは二年前なのだが。
「……黎祥」
「義母上」
現れた皇太后は声を潜めて、
「調べさせた話じゃが、蘇貴太妃はもう何ヶ月も部屋に籠っているそうだ」
と、報告してくる。
「何ヶ月も……?」
報告内容に疑問を抱き、首を傾げると
「毒に倒れたことにより、寝込んでいるという話だ」
と、返されて。
「…………」
また、だ。
明景という女に関しても、
蘇貴太妃に関しても、
どうして、こんなに胸につかえる、何かがある。
何だ?その、胸にあるのは……。