【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
翠蓮の笑顔を見て、怜世さんたちが辛そうな顔をした。
ここにいる人達―杏果以外―は、翠蓮と黎祥の事情を知っているから。
「大丈夫です。ほら、そろそろ参らないと……陛下に謁見する時刻が迫っている……」
「翠蓮様。―いいえ、李妃様」
道を阻まれ、翠蓮は輿に向かおうとした足を止めた。
翠蓮の道を立ち塞いだ二人は、ニッコリと微笑んで。
「ご挨拶をさせて下さいませ」
「挨拶……あっ、申し訳ありません」
「いえいえ」
名前を聞いていなかったことを思い出して、謝る。
すると、首を横に振る二人。
「私は、趙天華(チョウ テンカ)と申します。年は翠蓮様とそう変わらぬ、十九です」
翠蓮が十八だから……確かに、そう変わらない。
続いて、先程、怜世さんに詰め寄っていた美人が。
「李義勇の異母弟・李玄秀(リ ゲンシュウ)が娘、李蝶雪(リ チョウセツ)と申します。年は天華と同じく、十九。武術の心得があり、本日より、天華共々、貴方様の侍女として働かせていただきます」
「李将軍の……」
李義勇というのは、李将軍の御名らしい。
両親が死に、妹は家出なされて、妻子もなく、天涯孤独だったというのは、共に住んでいないからだったらしい。
それでも李氏ならば、後宮に入ることは出来ただろうに……。
「蝶雪さんと、天華さんは……趙家と李家の血筋のものということですよね?」
「さん、などいりませんわ。どうか、呼び捨てで」
「そうですよ。私達は、貴女の侍女なのですから……」
「…………………………え?」
「「?」」
「何か、不手際でもありましたでしょうか」
今、なんて言った?
「……侍女?」
聞き返すと、
「はい。宮仕え、夢だったんです」
と、天華に満面の笑みで返された。