【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
***


「皇帝陛下の御成りー」


そんなに仰々しくする必要は無いのだが、その言葉で、明恩宮の女官や宦官が集まってきて、拝礼してきた。


「陛下、ようこそおいでくださいました」


先頭には、その宮の主である順徳太妃がいて。


「状況は聞いた。そなたが寄越したのは、宦官か?」


「いいえ。流雲様がお伝えしたことが、真実でございます。わたくしは手紙を女官に預けましたわ」


「手紙……」


そんな手紙は届いてない。


なら、その手紙はどこへ行ってしまったのか。


「……順徳太妃」


「当たり障りなく。私は翠玉の教えで、文を書きましたわ。ですから、見られても問題はありませぬ」


「順薬師の?」


殊勝な笑みを浮かべた順徳太妃は、背後を振り返る。


そこに拝礼していた翠蓮は、


「失礼致します」


と、一言言うと、


「陛下をはじめとした、皆々様にお願い申し上げます。ここより先、立ち入りを禁じます。どこに毒が仕込まれているのか、分かりませんので」


と、淡々と告げた。


数日前の夜のことなど、まるでなかったかのような関係だ。


最も、今は妃と皇帝ではない。


薬師と、皇帝なわけだが。


「雄星を見舞うことも許されぬか?」


「……許可、致しかねます」


袖で顔を隠す仕草は、数ヶ月前と変わらず。


黎祥と翠蓮の間には、決して越えられぬものが存在する。


それを越えたくて足掻いたところで、翠蓮には届かないのか。


そう思い知る度、胸が痛い。

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