【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―



「とても優しくてね……朱家って、聞いたことある?」


その家の名前を口にした時、翠蓮の後ろに控えていた侍女の肩が揺れた。


震えて、翠蓮はそれに気づくと、彼女をそばの椅子に座らせる。


「……知っています。私も、幼い頃に、彼らが処刑される様を父と見ました」


優しく侍女の背を撫でて、翠蓮は雪麗に目を向けた。


「そう……その友人はね、そこの子息だったの。私に毎日会いに来ては、笑わせてくれたわ。父様にも母様にも愛されず、兄様にはほとんど会えなかった私にとって、その人は……善敬(ゼンケイ)は、幼い私の全てだったのよ」


「……」


「『いつか、君に求婚したいな』って、冗談を言ってくれるような人でね。私もまた、そんな冗談を笑って聞き流していたけれど、そんな未来を想像してた。因みに、その頃は後宮に入るなんて知らなかったの。だって、叔母上が後宮にはいたんだもの。先々帝の後宮にも、先帝の後宮にも、栄家のものはいたわ。全員、不自然死をしてしまっているのだけどね。……それは恐らく、今回の一連の事件に繋がっているわ」


今でも、窓を見れば思い出す。


いつ来るのか、いつ来るのかと、心を踊らせていた孤独な自分を、窓辺に見る。


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