【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「……?」
どこかで会っただろうか、と、頭を悩ませる。
「覚えてないだろうけど、僕は君のことを知っている。昔から、君は変わらない」
「え?」
「翠蓮が心配で来たんだろう?」
尋ねられて、とりあえず、頷く。
そういや、当たり前のように笑っているが、ここは後宮で―……誰かの間男か?それとも、翠蓮の……。
「あ、僕は翠蓮の間男とかじゃないし、そういう関係にもならないからね」
「!?」
―まるで、心を読まれた気分だ。
思わず、眉間に皺を寄せると、
「ハハッ、やっぱり、君は変わらない〜っ!」
志輝は笑い出す。
「フフフッ、あー、っ、おかしいなぁ。相変わらず、彩苑、じゃなかった、翠蓮のことになると、顔に出るんだねー」
「お前は、一体……」
「あ、そうか。あれから、千年だもんね。千年も経てば忘れちゃうよね。親友の存在も」
―親友?
聞きなれない単語に、首を傾げる。
(そんなの、今までいた覚えもないし、ところで、千年ってなんだ?)
「……あ、でも、少し寂しいな」
「……」
「君との思い出を失ったみたいで悲しいけれど、これから、新しい思い出を作っていけばいいか。また、よろしくね」
どうして、そんなに悲しい顔をしているんだろう。
回廊から見える、睡蓮の花々。
香りを孕んだ、風は黎祥の頬を撫でる。
手を差し出してきた、志輝は微笑んでいた。
泣きだしそうな、いや、でも、やはり、微笑しているような。
瞬きをしている間に消えてしまいそうな、そんな玉響の静寂を孕んだ立ち姿のかつての親友。
(私は、何を忘れている……?)