【完】李寵妃恋譚―この世界、君と共に―
「教えられない。―だって、僕は彼女には幸せなうちに死んで欲しいから」
「……」
母親を殺した相手のことについて話す流雲殿下は、優しく目元を和らげて、
「だから、話せない。けど、代わりに……」
耳元に、口を寄せられる。
そして、呟かれた言葉。
「……こんなことしか、言えないけど。ごめんね、二人とも」
その言葉を聞いて、翠蓮と黎祥は目を見開いた。
「これ……最大の、暗示ではなくて?」
「ああ……兄上は、どうして……」
「…………」
その一言で、色んなものがくっついていく……。
「―やっぱり、恨んでいるんじゃないのかな……」
「ん?」
「自分の母親を、殺されたこと」
「……」
「私だったら、恨む。でも、彼は蘇貴太妃を庇う体制を取っていて―……」
どういうことだろう。
どうして、流雲殿下は口を開かないのだろう。
何が、彼を止めているのだろう。
考えれば考えるほど、わからなくなっていく。
神とか、複数犯とか、復讐とか。
一体、何がどうなって、どこで繋がって、これらを生み出したのか―……。
「―陛下!翠蓮様!!」
扉の前で立っていた翠蓮達は、蝶雪の声に勢いよく振り向く。
そこで拝礼をしていたのは、
「―無礼を承知で、伺いました」
一人の妃と、皇女。
「泉賢妃と……露珠?」
珍しい組み合わせに、黎祥と翠蓮は顔を合わせて。