発つ者記憶に残らず【完】


「おまえは俺にメリアの犯した罪について聞いたんだ」

「あ、そうだったかもしれない」


言われてみれば、と頷いてみせた。


「メリアのおかぁしたああつうぅぅみいいぃ……」

「……あれ?」


ふと気づくとだんだんとゴードンの動きがゆっくりになっていき、ぜんまい仕掛けの人形が止まりそうになっているかのようにカタカタと動くと、最後はピタリとそのままの姿勢で止まった。

何これ、なんで止まったの!?


「私が映画のフィルムをちょん切ったからよ」


ふと声がして隣を見ると、すぐ隣にあった椅子に胸元に卒業式のリボンをつけた制服姿の松村菜々子がちょこんと座っていた。膝を揃え背筋を伸ばして礼儀正しくそこにいる。

私は、ガタン、と音を立てながら椅子から立ち上がり彼女から距離を取った。彼女はそんな私に見せつけるように右手でチョキを作り、ハサミのように2本の指を近づけたり遠ざけたりした。

チョキチョキ、と口パクでそれをしてきたから私は眉間にしわを寄せていった。


「初めまして?かな。私はメリア。あなたを造った親、みたいな者です」

「初めまして。私はあなたに造られたマリアです」


こんな状況なのに頭の中はいたって冷静だったからそんな返し方をした。それに対してメリアはクスリと笑い、ブラウスを第2ボタンまで外し、さらにブレザーの第1ボタンをブチッと千切ってテーブルの上に置いた。


「私はこのボタンを津田沼くんにあげたのよ」

「………」

「そうしたら、津田沼くんは私に命を捧げてしまった。なんて可哀想な彼…」


悲しげに目を伏せるけど残念ながら全く心に響いて来なかった。手帳からは感じなかったけど、メリアからはミステリアスな大人の女の香りがして、こんなんじゃコロッと落ちちゃう男がいてもおかしくない、と同性の私も感じられる程、制服なのに雰囲気があった。

無性に舌打ちをしたい気分だ。仕草が嘘っぽく感じられてなぜか嫌悪感が増してくる。同族嫌悪ではないと思いたい。


「あなた、消えたはずじゃなかったの?」

「一時的に、よ。そろそろこの先大丈夫だっていう目途がついたから戻ろうかと思って」

「は?」

「私があのままディアンヌでいるとまた不幸になるから、しばらくマリアに代わってもらってコンディションを良くさせてからまた戻る……これが私の狙いだったの」


まさかとは思うけど、あえて言おう。

メリアは想像とは違って、かなりの悪女に見えた。

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