発つ者記憶に残らず【完】
「言っている意味がわからない。そもそも今までどこにいたわけ?」
「あなたわりとせっかちよね。1から話すから取り敢えず座ってくれないかしら」
拗ねたように口を尖らせて上目遣いで見てくる彼女に嫌悪感を露わにしながら乱れた椅子の向きを正してストンと座った。向かい合ってはいないけど、目の前に窓があって外が暗いから反射してなんとなく隣が見えてしまい落ち着かない。
ため息はなんとかこらえてメリアの話を口を挟まず聞くことにした。
「まず、私の犯した罪について話すわね」
ノリはなんだか3分料理みたいに軽い感じだった。
「私も元々はゴードンと同じ監視官で、誰かの生死を記録し転生させていい人生を歩ませることが仕事だった。ノルマだってあったのよ?その中でもゴードンはトップに君臨する実力者で私も含めてみんなの憧れの的だった」
あの堕天使が憧れの的?かっこいいのは顔と黒い翼だけで態度はでかいし口数少なかったし私はあんまり好きじゃなかったけどな。
「ノルマについては省くけど、私はゴードンと同期だったこともあって必死になって仕事をしてた。そのとき、気になる人間がいたの。また彼に会いたい、と思ってちょこっと記録を書き換えてみると、彼は彼女ができても上手くいかなくなり別れを繰り返してついに自殺した。するとね、また私の元に帰って来たの。あのときは嬉しかったわ」
耳を塞ぎたくなったけど辛うじて塞がなかった。悪びれる様子もなく、本当に目を輝かせた彼女を理解しようともしたいとも思わなかったし、したくないとも思った。
「それを繰り返しているうちに彼のモチベーションが下がったことで私の評価がガクンと下がり、ついに上にバレてしまったの。その彼が転生をした回数は13回。だから私もその回数転生し、異性と結ばれることなくまた1から生まれ変わるという罰を受けた。処女のまま死に、両想いになれずに強制終了される気分はあなたもわかるでしょ?」
私の場合は転生中は記憶がすっ飛んでたので全部終わってからいきなり重力を感じるようにズドン、と悲しくなった。でもメリアの場合は生まれ変わったときからすでにその運命がわかってるし、"わかるでしょ?"と同情を求められてもどちらかと言えば"わからない"。
「その13回…私が8回、あなたが5回で終わりを告げ、私のディアンヌで最後だったわけ。私はもう償う必要がなくなったの。もうね、あなたには感謝してるわ。これまでの"彼"をその後も幸せに導いてくれて」
「ちょっと待って」
今、聞き捨てならない言葉を聞いた気がして思わず隣を見てしまった。彼女は妖しく微笑みながら私を見ていた。
「"私のディアンヌで最後"?誰かに告白されて罪が終わったことになるのに、私がまだこうしているのはなぜ?それに、誰に告白されたっていうの?」
順を追うって言われて黙って聞いてたけどもう無理。辛うじて私がなんで0歳からではなく16歳のディアンヌの体に入ったのかを聞かなかったものの、少し内容を変えてすでに終わったカウントのことを追求し、誰に告白されたのかを聞いた。