『One more Love♡』
十時編集長が担当する週刊誌の編集部がある階にエレベーターが停ると,編集長は璃桜くんを抱っこしたまま,編集部へと足を踏み込んだ。

「あっ。編集長おかえりなさ…って…こ,子供?!」
「すまないが,何か用事があったら,隣のミーティングルームに来てくれ」
「そ,それは…構いませんが…編集長…その子は一体…?」
「詳しい話は,後だ」
「五十嵐,先にミーティングルームに行っててくれ」
「はい」

編集長の後ろに隠れる様に居たあたしは,『ひょこりっ』っと姿を現すと,

「「五十嵐(さん)?!」お前,今日って休みじゃなかったのか?」

あたしは,編集部の方に『ペコッ』っと会釈だけする。

「璃桜くん,こっちおいで」

あたしは編集長に近付き,璃桜くんに両手を出して抱っこをし,ミーティングルームへと向かった。





ミーティングルームに入ると,近くのテーブルに荷物を置き,椅子を引いて腰を下ろし,璃桜くんを膝の上に乗せて抱いていた。

「ココたん」
「ん?どうしたの?」
「かちこくしてたら,おかちかってくえゆ?」

いきなりの言葉にビックリしたが,あたしは『ニコッ』っと微笑んで〝賢くしてたらね〟っと約束すると,璃桜くんは,〝やくしょくね〟っと言って小指を出して来て,あたしも小指を出して,指切りげんまんを交わしていると,
ミーティングルームの扉が『ガチャ』っと開く。

「待たせたな。五十嵐は,コーヒーで良かったか?」
「あ…すみません。ありがとうございます」
「こっちは璃桜くんにな。飲めるか?」

編集長は,コーヒー2つをテーブルに置き,あたしと向き合った状態で膝の上に座ってる璃桜くんと目線を合わせる様にしゃがみ込み,持ってたジュースを見せる。

「ボクに?」
「ああ。飲めるか?」

編集長に聞かれた璃桜くんは,『コクン』っと頭を縦に振る。

「よし。じゃぁ,はいどうぞ」
「ありやと」
「どういたしまして」

編集長は,礼儀正しい璃桜くんに『ニカッ』っと微笑むと,立ち上がって1つコーヒーを手にして,向かいの椅子に座った。
あたしは,璃桜くんを隣の椅子に座らせて,貰ったジュースにストローをさして渡してあげると,早速飲み始めたのを見て話しを始めた。

「編集長,実はお願いがあって伺ったんです。」
「お願い?」

あたしは『コクン』っと頷く。

「前に期間限定で雑用として雇って下さい…っとお願いして,雇って頂いてたんですが…期間とか関係なくしばらくの間このまま雑用係として雇って頂けませんか?」
「それは…構わない…ってか,こっちがお願いしたいぐらい有難いが…何かあったのか?」

あたしは,膝の上に置いていた手を強く握りしめ,

「……ダメになったんです…」
「……えっ…ダメになった…って…まさか…」

あたしは,『コクッ』っも小さく縦に振る。

「だって2週間…ぃゃ,もう2週間もないが…後って言ってなかったか?」
「はい…言いました…」
「何があったのか…ちゃんと話してくれないか?」

あたしは,編集長に言われて,この2日間であった事を包み隠さず全て話した。今日の朝にあった慎さんからの告白の事を除いて…。

「…そんな事があったのか…。それで,これからどうするんだ?」
「…取り敢えず,就職先を探すつもりです。いつまでもバイトってワケにもいきませんから。なので就職先が見つかるまでの間,ここで今まで通り雑用のバイトをさせて下さい。お願いします。」

あたしが頭を下げると,編集長に頭を上げる様にと言われ,あたしはゆっくりと頭を上げた。
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