夢原夫婦のヒミツ
すると日比谷さんは、私の背後に立ち肩に手を乗せて大和さんに訴える。

「そーだ、そーだ!」

「武志」

すかさず大和さんが声を上げると、日比谷さんは私の肩から手を離して大和さんに歩み寄った。

「とにかく愛実ちゃんはお前に会いたかったんだ。……ちゃんと話を聞いてやって」

そう言うと日比谷さんは私を見て、白い歯を覗かせた。

「それじゃ愛実ちゃん、また今度ね。帰りはちゃんと大和に送ってもらうんだよ?」

「あ……! 日比谷さん、ありがとうございました!」

大きく頭を下げると彼は「またね」と言いながら去っていった。

残された私と大和さん。

あんなに会って言いたいことがあったのに、実際に会うとなかなか言葉が出てこない。

どうしよう、どうやって切り出そうか。

迷っていると、大和さんが先に口を開いた。

「えっと……とりあえず場所を変えようか」

「あ、はい」

先に歩き出した彼についていくものの、そういえば私……さっきかなり大胆なことを言ったことに今さらながら気づいた。

本人を目の前に、会いたかったなんて言っちゃったよね?

思い出して恥ずかしさでいっぱいになる。
< 93 / 244 >

この作品をシェア

pagetop